カルネアデスの星

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梗 概

カルネアデスの星

難民を乗せた宇宙船が航行中に突然大破する。脱出用救命艇で逃げ延びた者たちもいたものの、多くは宇宙空間に投げ出されてしまう。人工バクテリアの「チビ」(語り手の俺) は、常緑樹の「植木」、液体コンピューターの「リー」、金属を積載した工業用ロボットの「寝坊助」とともに、不思議な金属の板に導かれ、脱出に成功する。

 

板は強い引力をもっていた。俺たち4体は、板とともに移動しながら、互いの素性や来歴を知っていく。俺たちが絆を形成し始めたとき、救命艇から追い出された「人間」が突然、引力の圏内に飛び込んでくる。「人間」が加わることで力のバランスが崩れ、板は迷走し始める。

 

「人間」がいると、全員が命を落とす。「人間」を追い出すべきか議論は紛糾し、結論が出ないまま板の航路はますます不安定になる。そして「板」だった物体は徐々に大きくなり、球状に変形していく。

 

そんなとき、俺たちは救命艇の一群と出会う。俺たちに加わった「人間」は、救命艇から追い出された一人だった。また、難民船の向かう先が「フローガ」であることを知る。フローガは銀河系の辺境に造られた人工惑星で、太陽系の生命体の移住先として期待されていた。しかしコア部分の設計に欠陥が発覚し、造成を中断しただけでなく、惑星全体を解体する作業に入っていた。難民は危険な解体作業の担い手として集められていた。

 

救助艇とともに別の難民船に助けを求めようとしたが、膨張し、引力を強め、かつ不安定な板に振り回され、上手くいかない。一方、難民船に助けを求めた救助艇は、援助を拒む難民船側の攻撃を受け、救命艇に乗っていた者たちは命を落とす。

 

難民船と同じワープ航路に入った俺たちに「人間」が膨張する板の正体を明かす。板はフローガに次ぐ人工惑星の中心を担う金属体であった。「人間」はフローガの過ちを繰り返さないために、難民を装って難民船に乗り込み、板の破壊を目論んだものの失敗したのだった。俺たちは船を破壊した「人間」に対する怒りとともに、小惑星ほどの大きさとなった板の行方に不安を抱いていた。

 

難民船には板とともに、新しい人工惑星の素となる物質や生命体が積み込まれていた。それが俺たち4体だった。俺たちがこうして引力によって生き延びているのは、俺たちが新しい惑星の一部であることの証なのだ。

 

板はワープ航路の中で加速を続ける。ワープ航路を出ると目の前に温度上昇のせいで真っ赤になったフローガが現れる。板=小惑星は最大限に加速しフローガに衝突し、俺たちは再び宇宙空間に投げ出される。フローガは爆発し、全てが失われた爆心で板は惑星として誕生する瞬間を迎えていた。

 

俺は自分が生きているか死んでいるか、他の3体がどうなったのか分からないまま、強い引力で「板」に引き寄せられていく。自分自身が惑星の一部となり再び「人間」に出会うのを楽しみにしながら。

文字数:1174

内容に関するアピール

「カルネアデスの板」は自らの生命が脅かされる場合の緊急避難の例として用いられる挿話です。本作では、主人公たちを惑星の一部にすることによって、生きること、死ぬことの多様なあり方を提示します。本作における人間は生き延びる地(人工惑星)≒カルネアデスの板を創ることに失敗した存在です。それでもなお生き延びようとする「人間」を滑稽なキャラクターとして描きます。

 

惑星がどのように誕生するかという点について、本作では衝突などの大きなエネルギーを伴う出来事を必要とし、かつ偶然誕生するものであるという前提に立っています。もちろん植物、金属・岩石、水、バクテリアは上記衝突の後、長い年月を経て生まれるものなので、これらを最初から用意して、配置あるいは合成するかのような描き方は、小説としての嘘です。しかし無機質な惑星の誕生を擬人化することで、個性豊かなキャラクターが対立し、仲間になっていく、愉快な物語にしたいと考えています。

文字数:405

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