梗 概
ひなぎく号の憂鬱
「離陸可能な機体から空中退避!全機、上がれ! 繰り返す、全機緊急発進、上がれ! 時間がない」
悲鳴のような管制室からの肉声の指示。
「えー、全機上がれって、どっから上がるのよー」「どこか上がれるところ探しなさいよ!」
図体ばかり大きい宇宙保育園「ひなぎく号」は、園児三十二名を乗せ空中退避しようにも、血相変えたベテランパイロットたちが次々発進していく中で、まるでぐるぐる廻る大縄に入るタイミングを測れない子どものように立ち往生していた。
「バカ野郎、子どもを道連れに死ぬ気か。オレが後ろの船を止めといてやる間に、さっさと飛べ!」顔なじみの古参パイロットに横入りさせてもらってやっと離陸。
グリーゼ581星系第六惑星の上に浮いた巨大宇宙ステーション、通称軍艦島が謎の大爆発をしたのは、離陸後わずか110秒後のことだった。
そして、その瞬間、保育園「ひなぎく号」は孤児院「ひなぎく号」になった。
地球から30光年以内の系外惑星を探査した結果、人類はいくつかの鉱物資源のある惑星を発見した。そのうちハビタブルゾーンにあった系外惑星を除くと、テラフォーミングや基地を惑星上に作るよりも、目的の惑星の上空に種々プラントや、住居設備を備えた宇宙ステーションを浮かばせるほうが、はるかにコストも抑えられ、利便性も高かった。
そうした巨大宇宙ステーションで問題になったのが幼い子どもの教育だった。宇宙ステーションは巨大で、子どもの数は少ないため、同じような年頃の子ども同士でふれあうことなく育つ子も多かった。配信される授業を受け、生身のクラスメイトを知らないまま十代になり、地球の学校に戻る子どもたちは、往々にして学力はあってもなかなか地球の学校に慣れることができなかった。
そこで、そうした宇宙で働く親のニーズに応えるべく開園したのが保育園「ひなぎく号」だった。パイロット兼園長のナツと二名の保育士で巨大宇宙ステーションのエリア毎のポートでピックアップして子どもを集め、ひなぎく号の船内で集団保育する。そして、夕方にはまた送り届け、場合によっては延長保育もOKという地球型の保育園システムを宇宙でも実践したのだ。
しかし、この爆発で預かっていたほとんどの子どもたちは両親をなくし孤児になってしまった。
爆発に巻き込まれ宇宙を漂流していた軍艦島で働いていたシェフを助けたナツは、採掘をしていた会社の本社に子どもたちを届ければそれで保育園としての仕事は終わると考えていたが、下請け会社の子どもも多く埒が明かない。それどころか、採掘会社の担当者は、ナツに契約料を払うので当分子どもたちを預かり続けて欲しいと言い出す始末。
仕方なく、大人四人で、入園の時に記入してもらった緊急時の連絡先を頼りに、子どもたちを祖父母や近親者に届ける旅が始まる。
いわば、毎日がお泊り保育の連続だった。
だが、どこへいっても邪魔者扱いされる子どもたちを見ているうちに、ナツは本気で宇宙孤児院をやっていこうと決心する。
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内容に関するアピール
四十代と二十代の女性三人で始めた宇宙保育園。
資金不足のために選択肢があまりなく、購入できた宇宙船「ひなぎく号」にはなにかと保育園には必要のない設備がついています。
例えていうなら、軽自動車にしか乗ったことのないドライバーがおんぼろリムジンを運転しているような状況です。
まだ、軍艦島の爆発の原因や、子どもたちを届ける旅のエピソードなど詰めることができていない部分もありますが、姉御肌のナツの人情とアクションとを楽しめる話を書こうと考えています。
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