梗 概
初夏と雨/色と宙
大規模な観測装置がなくても、誰でも気軽に並行世界を観測することができるという携帯通信端末用アプリ「時空間グラス」。インストールすれば、手のひらサイズのディスプレイを覗き込むだけで、その向こう側に目の前に広がっている世界とよく似た、まったく別の世界が映る……かもしれない。
無料で利用できる試用版の「時空間グラス」を導入してみたミナモ。しかし、本当に別の世界が見えると信じているわけではない。ただ、流行っているらしいから、退屈なときに覗いてみたら何かが映るかも知れないから、そんな軽い気持ちで使い始めただけだった。
雨宿りのために立ち寄った図書館で、ミナモがグラスを覗き込んでみると、そこには白い少女の姿が映る。
新しい天体望遠鏡を購入するために親戚の経営している喫茶店でアルバイトをしているイチカ。最新型のレンズと構造を取り入れた本格モデル。それを使って十七年ぶりという流星群を観測するのが、ここ半年間のイチカの目標になっていた。今月のバイト代が出れば、ついに手に入るのだ。
小さな喫茶店を訪れるのは常連客がほとんどだったが、そこにある日、イチカと同世代くらいの見慣れない少女がやってくる。イチカがいつものように親しい客と間近に迫った流星群の話で盛り上がっていると、不意に少女は話に加わってきて、自分も流星を見てみたいと言う。イチカはその申し出を受け入れて、一緒に星を見に行く約束をする。
両親の離婚によって母親とともに慣れない土地へ引っ越してきたシタル。新しい学校への編入に不安を抱きつつも、街を散策しているうちに次第に好奇心を刺激されていく。シタルの不安をよそに、学校ではすぐにミナモとイチカという友達もできる。
夏休みを目前に控え、三人はイチカの購入した最新式の望遠鏡で星を見に行くことになる。無数の流星を眺めながら、ミナモのかざした「時空間グラス」には、夜空にはない、小さな青い星が映った。
文字数:800
内容に関するアピール
これまでの九回の課題では、三人の主要な登場人物を設定した(ゆるくつながりのある)連作を書いてきたのですが、どちらかというと、やや変わったシチュエーションのなかで、ひどい目にあうような話が多かったので、最後くらいは日常的な生活空間のなかで、それなりに楽しく過ごしている様子を描いて、爽やかな読後感で終えられればと思います。
これまでに比べて分量がやや多めに設定されていることもありますので、三人の性格なども今までよりもすこし掘り下げて描写できればいいのだけれど、と考えています。
一つの短編としては青春小説のような読み味を目指しつつ、連作を読んできてくれた人にとっては、驚きだったり、自分なりにSFらしさを感じてもらえるような工夫をしていくつもりです。
また、これを読み終えた後に、第一回から読み返すことで、違った印象や新しい面白さを見つけられるようなものにできるように練っていきたいです。
文字数:395