梗 概
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提出の練習をしてみました
パソコン力の乏しい私にとっては
なかなか難しいです
別で作成した文章をコピーして
こちらに貼り付けると
全ての改行で1行空いてしまう様なので
自分なりの工夫が必要だと分かりました
とりあえず
UPに成功したならば
後日あらためて提出予定です
よろしくお願いいたします
文字数:140
内容に関するアピール
あ
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提出の練習をしてみました
パソコン力の乏しい私にとっては
なかなか難しいです
別で作成した文章をコピーして
こちらに貼り付けると
全ての改行で1行空いてしまう様なので
自分なりの工夫が必要だと分かりました
とりあえず
UPに成功したならば
後日あらためて提出予定です
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文字数:139
夏休み
「それでは定刻となりましたのでぇ、職員会議を始めます。ご自宅や遠隔地等からリモート参加の先生も居られますし、それからぁ急遽、6年正担任の三浦先生がリモート参加という事だそうです。ですがぁ、しかし、三浦先生は今日、ご出勤されてましたよねぇ確か」
「それなんですが、教頭先生。先ほど私、理科室で三浦先生に言付けされてきたんですよ。『今日の会議はリモートで参加します』と。詳しい理由をお聞きしようと思ったんですが、三浦先生、何か生き物を観察して見えて、それが、ナマズだかオオサンショウウオだか、その形態の生き物だったんです。私、気持ち悪くて、直ぐにその場を離れてしまいました。申し訳ありません」
「とまあ、こう、6年副担任の吉田先生がおっしゃる様に、三浦先生は本日、理科室からリモート参加です」
会議室に失笑が木霊した。
2075年、日本の大多数の小学校の夏休みが7、8、9月の3か月間とされて既に久しい。夏の酷暑日は、全国的に毎年100日を超えていた。都会の郊外にある西部小学校では、明日からの夏休みに向けた職員会議が開催され、教頭先生から教職員に対し、長期休暇における留意事項等の説明がなされていた。特別に細かな指導はない。学校に限らず社会全体で休暇の増大したこの時代は、人々のほとんどが「ゆとり」指向であった。酷暑と相対的に寒さ感も増幅しているため、多くの学校で冬休みも12、1、2月の3か月間とされている。週休2日に6ケ月の長期休暇。学校は実に、1年の半分以上が休暇なのである。教頭曰く、生徒らが暇をもてあました挙句、極端な行動等に結びつかないよう、付かず離れずの指導態度は常に持ち合わせて欲しいとの事であった。
教頭が一通りの説明を終えた時、三浦がリモート発言してきた。
「教頭先生、私、夏休みに当面、学校に駐在させてもらってもよろしいでしょうか?」
「学校に駐在? 泊まり込みという事ですか?」
「はい、チョッとナマズの生態を詳しく観察したいものですから」
「ナマズの観察? まあ、学校の夜の管理人にもなりますから、有難いといえば有難いですが」
「有難うございます。よろしくお願いいたします」
会議室に再び失笑が広がった
「と、いうことで、夏休みの学校は夜も管理人在中で安心です。三浦先生は理科室が大学の研究室みたいなもんですな。しかも、ナマズの観察で」
会議室の失笑は爆笑と化した。
(皆が呑気に笑っていられるのも今のうちかもしれない……)
三浦がナマズの常時観察を申し出たのには理由がある。ナマズの動きに異常が見られるからだ。ナマズの動きの微妙な変化に最初に気づいたのは、6年生のナオミである。ナオミは元来の生き物好きもあって、学校の飼育係を買って出ていた。中でも特にナマズはお気に入りで、頻繁に世話観察をしていた。三浦は理科教師で、生き物好きでもあるため、校内の生き物全般を見回っており、ナオミと一緒に並んで暫くの間、生き物の前でじっと静かに観察していることも度々あった。ナオミがナマズの前に居ることが多いので、三浦はナマズの観察はナオミに任せ気味であった。ナオミの生き物好き、ナマズ好きを信頼していたし、ナマズの割と頑丈な生命力を信頼してもいた。そんな状況下、6月下旬のある日の給食後に、ナオミが三浦に告げてきた。
「先生、ナマズンが少し『変』かもしれません」
「変って?」
「ナマズは日中は池底でじっとしてますよね。で、時々、息をしてるのか、プカプカと泡が浮かんできますよね。ほんの少し、2泡3泡ですけど」
「ああ、そうだね。呼吸してるんだろうね、それが?」
「ここ最近、その泡が少し多い時があるんです、ナマズン。5泡6泡とか、本当に時々なんですけど、それに段々、そういう日が多くなってきているような気がして」
「そうか、じゃあ、昼休みに先生も見に行くよ、ナマズンを」
「はぁい、分かりました!」
ナマズは、学校の校舎とグランドの間にある『ひょうたん池』で飼われており、生徒らに『ナマズン』と名付けられ、校内の動物の中では存在感のある人気者であった。しかし、ナマズンは日中は池底の土中で静かにしているので、実際に生徒の目に触れることは少ない。運よくナマズンの姿を見られた生徒は、その事を得意げに自慢し、学校内で羨ましがられるのであった。そんな事情もあって、ナマズンは、なかなかお目にかかれない貴重な存在として、生徒の人気を集めていたともいえる。時々、泡がプカプカと浮かび上がってくるのだ。そんな時、生徒らは、ナマズンが出てくるのか、とワクワクしたのである。
給食後の昼休み、三浦が池にやって来ると、既にナオミが来ていて、池をのぞき込んでいた。
「あっ、先生、ナマズン、今、ここに居ると思います」
そう言って、ナオミが更にしゃがんで池をのぞき込んでいると、プカプカと例の気泡が2泡3泡ユラユラと水面に上昇してきた。が、案の定それのみで、ナマズンが姿を現すことはなかった。
「そうか、この下か」
三浦は、そう言いながら、自分も池をのぞき込もうとした。池の畔にしゃがみ込んで水面をのぞき込んでいるナオミの真後ろに立ち、ナオミの頭上から池をのぞき込んだ。
「相変わらずの静かな水面だな、ナオミさん。緑が深くて底までは見えないし」
不意に真後ろに接近して立たれたからか、ナオミは少し驚いてピクリとした。そして、むず痒さの様なものを感じながら、小声で叫び漏れてしまった。
「ダメェ! 先生はお父さんじゃないから、ダメェ!」
ナオミがのぞき込む緑色の水面には、自分の顔と、その頭上に三浦の顔が映し出されている。三浦の顔は微笑んでおり、加えて、大きく見開いた目で池底の様子を伺う真剣な眼差しを有していた。ナオミの背中の上には三浦の身体があり、ナオミの腰の両側には三浦の両足がピタリと接近して立っている
「おっ、気泡が上がって来たぞ、ナオミさん」
「……」
次の言葉を発せずにいる自分に戸惑いを覚えながら、しばし、ナオミは耐えていた。するとその時、水面に気泡が続々と幾つか浮かび上がってきた。
「あっ! 先生、泡が沢山っ!」
ユラユラと浮かび上がる気泡の数が少し増えてきて、そのユラユラの勢いも徐々に増してきた様に思われた
「本当だ。かなり多いな」
「10泡20泡、先生、もしかしてナマズン、動いているの?」
「うん、そうかもしれない。見えないから分からないけど」
ナマズンに水面に上がってきて欲しいような、昼間はこのまま池底で静かに居て欲しいような、どちらをも選びきれない心境のナオミであった。同時に、三浦に真後ろに接近して立たれたことが原因なのかどうか分からずながらも、実際に今感じているこのむず痒さから解放されたい様な、もう少しこのままで居たい様な、弥次郎兵衛の様な心持ちでいる自分を、己の全身全霊で大事に包み込んでもいたかった。
突如、校内にチャイムの音が鳴り響いた
「昼休みが終わったぞ、ナオミさん。教室へGOだ!」
その三浦の言葉よりも早く、ナオミは立ち上がり、校舎に向かって一目散に走りだしていた。興奮で足取りがいつもより、ずっと速く感じられた。(確かに少し『変』かもしれない、この気泡の多さは。ナマズンに異常があるのか、或いはまさか、地震を感知しているのか……)三浦は思いを巡らせた。
『今日から夏休み。3ケ月あるのでうれしい。今日は午前中は宿題をしました。午後は五右衛門君とイーロン君と3人で川へ魚取りに行きました。いつも行かない所まで川を下って魚を探しました。すごく遠くまで行ってしまって、でも、そこは川が広くなっていて、初めて見た景色でビックリしました。そして3人で泳ぎました。川で泳いだのは初めてで、最初は少し恐かったけれど、楽しかったです。魚はフナ、ナマズ、ウナギがとれました。帰りが遅くなって、お母さんに怒られました。<せいや>』
『7月1日。楽しい夏休み初日ですが、めっちゃ暑いです。夜は地下シェルターで寝なければ、寝れません。8月に家族で海外旅行に行くので楽しみです。海外はヨーロッパに行きます。パリ、ロンドン、スイス、色々行きます。お父さんが「子供のうちに海外へ行くのが良い」と言います。英語も勉強しなくちゃだから大変です。7月は勉強して、8月は海外ヨーロッパ旅行。早く8月にならないかなあ。<ユウキ>』
『今日、私は家でキッチンお仕事しました。夏休みは色々な料理に挑戦しようと思っています。夏なので、ソーメン、ひやむぎ、冷やし中華、カレーライスやサンドイッチも。それから、お菓子やパン、アイスクリームも作りたいな。もちろん、ナマズンや学校の生き物に食べさせる餌も色々と考えたいです。<ナオミ>』
『みんな、なかなか楽しそうで夏休みを満喫できそうですね。まだ初日だから、日記も書けるでしょうが、徐々に日にちが経つと、どうなるかな? 頑張ってください。<三浦先生から皆へ、一斉返信>』
夏休みが始まった。三浦は日夜、学校に駐在してナマズンの観察もしながら、生徒の休暇中の様子を把握するため、毎日の日記を宿題とし、普段は手書き推奨、週に一度は日記をメール作成し、三浦と吉田宛に送信する事を課題づけた。夏休み初日は基本的にはメール送信が課題づけられていた。
(夏休みが無事に終わると良いが……。今日のところは特に異状なしだな。夜だから餌を探し回ってはいるが、静かな動作だ)
夜のナマズンを観察するため、夏休み前日来、三浦はナマズンを理科室の水槽で飼っている。ナマズンは日中は、底の泥に伏せ佇んでいる。動きがないのと体色が泥と似ているのもあってか、パッと見は存在を確認しずらいのだが、時折り泥からプカプカと泡が2泡3泡、ゆっくりと浮かび上がる事があるので、その時、そこにナマズンの存在を確認することができた。(ここ数日は大丈夫だな、ナマズン、通常の動きだ)夏休みの序盤、ナマズンは日夜、安定していた。
夏休み3日目の夜の事だった。(うーん、僅かにナマズンの動きが速いかな?)三浦がそう思って水槽に近づくと、後ろの方で物音がしていた。
『ドンドンドン……』理科室の窓を、誰かが軽く叩いている様である。窓の外は暗闇で、叩いている者の顔は判別できなかったが、近づくとそれがナオミだと分かった。
「ナオミさんじゃないか、こんな夜にどうした?」
「先生、もしかしてナマズン、中に居るんですか?」
「そうだよ。あの水槽の中」
「良かったぁ。今日も昨日も一昨日も、昼間にひょうたん池に来たんだけど、泡が全然浮かんでこなくて心配してたんです。だから今日は夜に来てみたんです」
「あっ、そうか。ナオミさんには言ってなかったね。先生、ナマズンを観察するために、夏休みは理科室の水槽で飼うことにしたんだよ。実は夜も、学校に寝泊まりしてるんだ。ナマズンは大丈夫、元気だよ。というか、いつも通り、大人しいよ」
「エーッ、そうなんだ。良いなあ、先生、私も観察したい!」
「だめだめ、もう夜8時を過ぎてる。お家で心配されるよ」
「平気、平気、うち、お母さん、夜、仕事に出てるから。夜は私1人だけ。ナマズンの餌、作ったんです、これ」
そう言ってナオミはラップにくるまれた小さなおにぎりの様な物を取り出した。
「仕様がないな。8時15分には帰ってよ」
三浦はナオミを理科室に入れた。そして、2人で水槽を見やった。
「ナマズン、基本的は静かなんだけど、たまたま今夜は少し、動きが速いような気もするんだ」
「わぁ、感動っ! 昼間の池じゃ、滅多にナマズン見れないから。確かに、イキイキ動いてるっ!」
「飼育係のナオミさんが来たから、ナマズン喜んでるのかもね」
「じゃ、餌、あげてみます。大きな声では言えないけど、古古古古米で作ったおにぎりです。一応、昆布入りと鮭入りです。あげるね、ナマズン!」
そう言ってナオミはおにぎりを水槽に、そっと落とし入れた。ナマズンは、しばらく右往左往と勢い良く動いた後、おにぎりを咥えて飲み込んだ。
「喜んでる、喜んでる、ナマズン。美味しいっ?」
「さぁ、時間だ。とにかく今夜は帰りなさい」
「はぁい、また明日来るね、先生!」
「明日は、明るい時に来いよ」
「あっ、だけど先生、学校お泊りで、ご飯はどうしてるの?」
「基本、コンビニ弁当」
「明日から、私が作ってきてあげる、先生のお弁当も。大丈夫、毎日作ってるんだから。良いでしょ? 先生」
「分かったから、とにかく早く、帰りなさい!」
「イエーイっ! じゃあ先生、また明日ねぇ」
ナオミは勢いよく走って帰っていった。(おやっ? 餌を食べたからとはいえナマズン、チョッと勢い良すぎるかな? ナオミが来たから本当に嬉しいのか、それともおにぎりが“いまいち”だったのか? いや、もしかして、いよいよ地震感知か?)暫くの間は勢いの増していたナマズンだったが、徐々に落ち着きを取り戻していった。
翌日の夕方、ナオミが理科室をのぞくと、三浦の姿はなかった。職員室には数人の教師の顔が見えたので、ナオミは窓を叩いた。
「あっ、ナオミさん、こんにちは、どうしたの?」
「こんにちは吉田先生、今日、三浦先生は?」
「今日は町の教育委員会に出張なのよ」
「そうなんですか。あのぉ、理科室に入れてもらえませんか?」
「理科室? ハハァン、もしかして、あのナマズ? ちょっと待ってね」
吉田は教頭と少し相談した後、戻ってきてナオミに伝えた
「ナオミさん、飼育係だからね。エラい! じゃ、理科室のカギね。私は行かないから、ナオミさん1人でゴメンね」
「はい、有難うございます。先生、ナマズとか『苦手』ですもんね」
「まぁね、ゴメンなさいね、よろしく!」
ナオミは理科室に行き、ナマズンの水槽をのぞき込んだ。
「さあ、ナマズン、今日の調子はどお? 三浦先生は留守だけど」
「おっ、泡だ泡だ。あそこにナマズン居るんだな。よし、発見」
「うん? これは、三浦先生のノート?……、これ、ナマズンの観察日記だ!」
ノートには、夏休み前の6月の、あの日からの毎日随時の、ナマズンの動作観察が書かれていた。
(これ、『あの日』だ。私が三浦先生にナマズンの最近の『変』を知らせて、昼休みに先生と一緒に観察した日。そして、『あの日』は三浦先生に私……、えっ? ナマズンが地震を感知してる可能性って?……、あの日からずっと毎日、先生、ナマズンの観察を……、先生、三浦先生……)
「あっ、どうしたの? ナマズン」
土中から這い出たナマズンが、水槽内を上下左右に活発に動き出し、水槽の水面が揺れ始めていた。その時、理科室のドアが開いて、三浦が入ってきた。
「ナオミさん、来てたのか? 有難う」
「あっ、先生、ナマズンが活発なんです。日中なのに」
「えっ? 本当だ!」
水槽内を大きく動くナマズンを見て三浦は驚いた。
「日中にこんな動きは初めてだよ。どうした? ナマズン」
「先生、ナマズン、地震を感じてるかも、なんですか? ゴメンナサイ、さっき先生のノート、見ちゃって」
「観察日記か。まあ、良いよ。でも、心配するな。地震と決まったわけじゃない。あくまで可能性。ナマズが人間には感じない微弱な振動を感じたり、電磁波を感知したり、もしかしたら、そういう事もあるかもって話だよ。先生の単純な直感、思い付きのレベルだから」
「大地震だったら恐い。ナマズン、お前は何を感知したの?」
「よし、早速、定点カメラをセットしよう。今、教育委員会の帰りに買ってきたんだ。グッドタイミングだったよ。これで、僕が寝てる時も理科室に居ない時も24時間、ナマズンの観察ができる。ナオミさんは今日は帰りなさい。また今度、カメラの映像、見せてあげるから」
「分かりました。地震の事はもう少し聞きたいけど、恐いから今日は帰ります。先生のお弁当とナマズンの餌、作ってきたから、ここに置いときますね!」
「分かった。有難う」
「じゃあ先生、また明日……」
「うん、さようなら、気を付けて」
理科室を後にしたナオミは、一目散に廊下を駆け走り、帰っていった。その様子の一部始終を隣の理科準備室で、聞き耳を立てていた者があった。1人で理科室に入ったナオミの様子を伺いに来ていた吉田であった。吉田は、ナオミの後姿を見て、その余りの軽やかさに嫉妬感に苛まれた。(へえ、ナオミさん、三浦先生に手作り弁当なんだ)吉田は一旦、職員室に戻った。
暫くして、帰宅を前に吉田は理科室をのぞき、三浦の様子を伺ってみることにした。弁当の件を三浦が、どう言い訳するか。少し挑発してみたかった。
「あれ? 三浦先生、お弁当持参ですか?」
「いやぁ、実は、ナオミさんが作ってきてくれて」
「えっ? 生徒の手作り弁当ですか?」
「いやぁ、お恥ずかしい。タイミング上、断れなくて。明日、断ります」
「まあまあ、良いじゃないですか。日記メールでもナオミさん言ってましたよね。夏休みの課題はキッチンお仕事だって。それに、三浦先生、夏休みの学校常駐に時間外手当も出なくて、1食分の食費相当分として毎日2千円支給のみなんでしょ?教頭先生に聞きました。それもあるし、有難くナオミさん弁当、頂いておいたって良いと思います私は。味の事は分かりませんけど」
「それがね、結構美味しいんで、ビックリなんですよ、この生姜焼き弁当。僕が少々『味オンチ』なのかもですけど」
「……」
吉田には僅かながら急に反感が芽生えてきた。小学生女子の作った弁当が美味しい、その褒め主は梲の上がらない30代教師で、教え子女子の弁当お節介を隠すこともせず……。手料理の日常はなく、男性関係も特にない自分が、急に惨めに思われてしまった吉田は、自らの意地の悪い質問を発端に居心地の悪くなってしまった場所から即座に離れようとした。
「その水槽、あのナマズですね? あまり得意じゃないので、これで失礼します」
吉田は慌ててドアを閉めて、焦り半分、怒り半分の足取りで理科室を後にした。
「お疲れ様です。おやっ?」
ナマズンが再び水槽内で上下動を少し激しくさせた。
(日が暮れたからとはいえ、大きな動きだ。やはり近いのだろうか、地震が……、そうだ、場所を変えるのも良いかもしれない。もしも地震が近いなら、別の場所なら被害が少ない場合もある。西部小と別の場所、2拠点に居れば、万一の際、クラス全体として被害を分散できる。そもそも、別な場所でのナマズンの動作観察もしてみたい。林間学級を計画してみよう……)
その後も毎日、ナマズンは水槽内で大きな動作を起こすことが頻繁にあった。ナオミも毎日、弁当と餌を作ってきて三浦と一緒に観察し、ナマズンの動きを見守った。2人は理科室で一緒に夕飯をとることも度々あった。日暮れ前であれば三浦は、それを許容した。ナオミは日々、料理の腕を上げ、理科室ではナマズンと三浦と一緒に寄り添って居られる心地よさを享受しながら、少しむず痒い興奮感覚にも浸っていた。
8月、吉田は職員室で教頭に声をかけられた。
「吉田先生、実は急なお願いで申し訳ないのですが、9月に山間部へ林間学級に行っていただけませんか? 引率主任は三浦先生で生徒は数人だと思います。女生徒も居るので、女性の付き添いも居られた方が何かと無難ですので」
「はぁ……」
「特別なスケジュールが無ければ是非に。また今年も暑いですからねぇ、避暑も兼ねられますよ。9月の残暑こそ厳しいですからねえ。なに、特別ご多忙なら無理にとは申しません。学校行事ですから手当は出ます。三浦先生曰く、重要な自然体験なんだそうです。お付き添い、お願いできませんか? 実際、今の子は長期休暇が当たり前。暇を持て余し、何を考え、どんな行動しだすか分かりませんからねえ。ここは何とか、吉田先生お願いしますよ……」
9月、林間学級が始まった。場所は西部小学校から50キロ程離れた山間部の湖畔で、周囲を見渡せば高山の峰々が視界を埋め尽くし、涼しげな所である。こうした避暑地が国内には多く存在する。3ケ月の夏休み。その効果は大きい。学校に限らず、一般の会社も夏休みを多く設定することが奨励されている現在は、世の中全体に2拠点生活が広く浸透しているといってよい。日本人の「ゆとり」は、地球温暖化のおかげで上々に獲得されたのだ。林間学級の現地へは空飛ぶバスで向かった。もしも地震発生なら、空飛ぶ車は避難に貢献すると考えられる。そう、三浦は考えていた。湖がある、林がある、周りには山が見える。絶景だ。今夜はバーベキュー、カレーも作る。日没、夜空の星、月見も。テントで寝る。ナマズンは、湖の畔に囲いを作り、そこで飼って観察しよう。
「よし、みんな、最初はナマズンの池作りだ」
「よっしゃー!」
「でかいの、作るぞぉ!」
「ああ、そんなに大きくなくて良いぞ。ナマズンが少し動き回れる程度で」
生徒らはめいめいに小石を並べ、積み上げ始めた。特にせいやらは、川遊びで水に慣れているらしく、喜び勇んで作業を進めた。
「ナマズンが逃げないように、池底の工夫が必要だなあ」
「先生、こうしたらどう?」
せいやらが林から棒状の木々を何本も集めてきて川底に突き刺し、それらに板状の木々を当てがって、池の底や側面の周囲を固定させ始めた。石と石の隙間にも細かい木々等を詰め込み、ほぼ隙間の無い楕円の池が形作られた。
「先生、水の出入りも、必要だよね」
「そうだなあ」
生徒も三浦も少し困っていた。
「これは、どう?」
「ナオミ、ナイス!」
ナオミの手にしたバーベキュー用の網を受け取り、せいやらが石積みの間をごそごそと修繕して網を埋め、小池の取水口と出水口を作り上げた。
「君ら、大したもんだな。完全に土木工事成功だぞ」
「網に閃いたナオミも凄いよ。さすが飼育係やん」
「逆に先生は『作れ』の号令だけやったなぁ」
「それが現場監督だよ。アハハ……」
「よーし、ナマズンを入れよう」
ナオミが既にナマズンを水槽から取り出していて、静かに池に放した。ナオミの掌からスルリと抜け出し、ナマズンは池の底へと降りて行った。
(あぁ嫌っ、ヌルヌル感がここまで伝わって来て、気持ち悪い!)
吉田はその様子を少し離れた所から眺めていた。渋々ながら付き添いを引き受けたのである。期間中は子供らとバーべキューに奮闘もし、夜はテントでナオミとユウキと川の字で寝た。
林間学級3日目、夕暮れの湖、小池の畔に人影があった。ほぼ沈んだ太陽の下、辺りは薄暗さを増したため、人影の主を目で判別はできないが、当然、三浦とナオミであった。度々ナマズンを観察する三浦、飼育係として同様にナマズンに寄り添うナオミ。普段の光景から人影の主が想定できた。その光景を、不意に目にした吉田は身の毛が弥立った。(何? このゾクゾク感は、寒いわけじゃない。何かの気配?)吉田は身体中に震えを感じていた。実際、見ると腕の体毛が毛並みを揃えて逆立っている。(身体の異常なの? それとも何か心理的な要因?)吉田は、その源が、視線の先にあると結論付けた。ナオミは小学生。林間学級中の日夜、ノースリーブにショートパンツでむきだしの肌は、見事な小麦色でツヤツヤに光り、いかにも柔らかそうな四肢の弾力感が、これみよがしに吉田の目に向かって刺さってきていた。(私、ナオミに嫉妬してる?)そのナオミは、密かに三浦を想っているかもしれない。いや、まず間違いなく想っているだろう。ナオミ本人がその事をどれだけ認識しているかどうかはわからないが。そのナオミに今、自分は嫉妬しているかもしれない。ナオミの圧倒的な若さに、そして、到来する可能性のある近未来の彼女の美しさに。それに留まらず、ナオミの想いの先である三浦の存在もまた、自分の心を揺らしている。三浦そのものなど、そもそも何とも思っていなかったはず、むしろ嫌悪していたはず。なのに何故、なぜ? ナオミの邪魔をしたいの? そんな姑息邪悪な人間なの?私は。あの2人は、ナマズを介して強く結ばれている。私の苦手なナマズで。自分には触れることのできない気持ちの悪いナマズ、それと、簡単に仲良しになれる2人は、吉田にとってはある種の尊敬の対象ともなっていた。吉田は2人に近づき、話しかけた。
「夕暮れのお2人、何か妙に、映えてますよ。アレっ、何? エエッ?」
ナマズンが池で激しく体を捩じらせていた。
「今夜も荒れてるな」
「吉田先生が近づいて来た時に、余計に暴れが酷くなった感じ!」
吉田はナマズンから目をそむけて三浦に尋ねた。
「そもそも何故、ナマズをこんなに日夜、観察するんですか?」
「吉田先生には話しておいた方が良いですね。実はナマズンの最近の動作が少し異常なんです。荒れてます。僕は、ナマズンが地震を感知しているのでは、と考えています。子供の頃、私の祖父が言っていたんです。祖父が20代の頃、阪神淡路大震災という大地震があったんです。1月の朝6時少し前だったそうです。1月だから寒い。普段は朝なかなか目が覚めず、仮に覚めても布団から簡単には出られず。それが当然なのに、その日は少し違ったそうです。祖父、ハッキリ目が覚めたんです。そして、何となく不穏な雰囲気を感じたそうです。いま何時だろうと考えたほんのしばらく後、ユラユラユラっと、寝室が揺れて。地震か? と思ったそうです。しかもその揺れは、それまでの人生史上最も長く続いたそうで、1分ほど続いたように感じたそうです。時折り揺れが少し大きくなりそうな気配を見せながらも、どうにかこうにか持ちこたえて、やや弱い揺れが長く続いて、その後、収まった。次にまた来るか、このまま家がつぶれたら、俺はどうなるだろう、と心配もしたらしいですが、それは来ず、ベッドで目を開けたまま時間を過ごした。地震を予知して目覚めたのだろうか、と不思議に、そして少し得意げな心持ちで寝床に居たそうです。朝はラジオのニュースで目覚める日常だったそうで。その日の朝のニュースで、どうやら関西で地震が発生し、1人のけが人が出た模様だと伝えていたそうです。あの弱い揺れだ、まあ、それくらいだろうな、と思ったそうですが、職場に出勤し、時間が経つにつれ、事情が大きく変わっていきました。実は、かなり大きな地震だったらしく、震源は神戸。大都会の直下真下が震源であったため、街中で大きな被害が出ていると。木造住宅を中心に一戸建て、共同住宅、企業ビル、病院などの倒壊が多々あり、多くの犠牲者が出た。高速道路の高架が落下し、残った高架上には車が前輪を空中に脱輪させ、後輪で高架にようやく残っているという驚愕の光景もあったそうです。緊急車両のサイレンが激しく聞こえるも、そこかしこで道路の寸断、渋滞があるからでしょう、サイレンの主の姿が映像に映ることはなかったそうです。更にしばらくすると、住宅密集地域で点在した各所から火の手、煙が上がる様子をヘリコプターからの空撮映像で見ることができたそうです。かなり広い住宅地域のあちこちから火の手が上がり、煙が上空に高く高く吹き上がっている地獄の光景だったそうです……。そんな大地震が来るのを、ナマズンは感知してるのかも。人間には感じない微弱な振動をナマズンが今、感じているのかもしれないと、僕は思ったんです。事実、この夏休みは毎日、ナマズンの動きが大きくて、次第に荒れが大きくなってきてるんです」
「……」
吉田は呆気にとられ、言葉を失っている。ナマズの感知能力はともかく、大地震の恐怖はやはりインパクトが強い。
「祖父は多分、地震の第1波の『ドンっ』で目覚めたんでしょうね。で、次にユラユラの長い長い第2波を寝床で体験した。祖父は震源地から250キロ位離れた所に住んでいたんです。それでも振動は襲ってきた。祖父のいた場所で震度4、震源の神戸は震度7で、結局5,000人以上が亡くなったそうです。当時はネットもユーチューブも、携帯電話すらも普及前です。初動のテレビ報道は情報把握に混乱してたでしょうね。そして今、ここは西部小から50キロ離れているんですが、ナマズンの荒れ方は、西部小の時より大きいんです。もしかしたらこっちの方が震源に近くなるかもしれません。この先は全て『運』です。もし、ナマズンが大地震前の多くの予備振動等を感知してるのならば……」
「地震が必ず起こるってわけでもないんでしょ?」
「おっしゃる通り。僕も、起こらない運命を期待してます」
吉田は、阪神淡路大震災の話を聞いて興奮していた。そして、祖父から聞いたというその話を元にナマズの行動異常と関連付けて地道に観察しようとする愚直な三浦に、尊敬の念を増幅させていた。
バチバチッ、バチバチッ! 火の粉の飛び散る音が川面に木霊した。小舟の上で燃え盛るかがり火の炎が、夜の川を照らしている。船を操る人以外に、もう1人の人影があり、何やら小刻みに動いている。林間学級の場所から少し離れた川で鵜飼が行われ、一行は最後の夜のお楽しみ会として参加した。暗闇の中で明々と燃える光景を目の当たりにして、子供らは言葉を失っていた。さきほど夕暮れ、舟に乗り込む前は、あんなに燥いで騒いでいたのに。
「鵜飼は1000年以上前から続いているんだぞ」
「えっ? 1000年?」
「戦国時代、織田信長だって鵜飼を見たかもしれない。そう思うと長い長い歴史に感動するよな」
「へえ、そうなのか……」
三浦の話を聞いて、子供らは高揚していた。2075年の今の現在、夏の夜に川に舟を浮かべての鵜飼。舟上で鵜匠が数羽もの鵜の首に縄を括り付けて川に放ち、その鵜が川に首を突っ込んで魚を咥える。そして飲み込む。しばらくして鵜匠が鵜を舟に上げ、その首をつかむ。鵜は飲み込んでいた魚を吐き出させられ、舟の上に何匹もの魚が転げ落ちていく。清流の魚『アユ』だ。
「アユも鵜も可哀そう」
「そうだなあ、少し可哀そうだなあ」
「ワタシ、鵜飼をする人になりたい!」
突然ユウキが立ち上がって叫んだ。どうやら鵜飼が大きく気に入ったらしい。
「中学を卒業したら考えてみると良いよ。でも、長い長い修業があるぞ」
ユウキは興奮して、じっと鵜飼の様子を見入っていた。子供たちの溌溂とした様を吉田は羨望の眼差しで見ていた。ナオミも船から身を乗り出して鵜飼を見ていた。かがり火の炎が明々とナオミを照らし出し、その熱く眩しい姿が吉田の火照った内なる心を更に飛び火で燃やした。やがて、何艘もの小舟が辺りに追随してきて、川のそこかしこが明々と照らし出され、沢山の鵜が水中に潜り、魚を飲み込み、圧巻の追い込み漁が始まった。船頭が首をかしげていたので、三浦が訪ねると、どうやら今夜、鵜が飲み込んでくるのがアユでなく、ナマズばかりだとの事だった。(いよいよ来たか、ナマズンのみならず、そこら中のナマズが振動を感知しているに違いない)舟底に『ドンドン』と激しく当たる物音がして、舟も揺れた。ナマズ達が突進しているに違いない。
「あっ!」
その途端、誰かが舟から川に落ちた。身を乗り出して鵜飼を見ていたナオミだった。ナオミを助けんがため、川に飛び込む船頭。その船頭よりも先に飛び込んだのは三浦だった。バシャバシャと荒れる川面。よく見ると水面から跳ね上がって暴れているのは無数のナマズ達であった。『ドンドン』と舟底は更に叩かれ、鵜飼の場は大荒れに荒れたが、ナオミは三浦によって無事に助け上げられた。岸に上がったナオミの濡れた身体を、吉田がタオルで強く、強く吹き上げた。例えようもなくナオミの事が羨ましかった。
(うーん、今朝も特に異状なしか。夏休みにも結局、大地震は起こらなかった。まだまだ地中の軽い振動のみなのだろうか、それとも、地震とは無関係な振動を感知しているのだろうか……)歯磨き洗顔しながら理科室でナマズンをのぞき込む三浦。10月1日、2学期の始まった学校に生徒らが登校してきて下駄箱や廊下は騒がしくなった。
「おい、見ろよ」
「何だ? あれ!」
全身真っ白なつなぎの防護服にゴム手袋で廊下を進む者、吉田であった。下駄箱にナオミが立っていた。ナオミと吉田は、きつく見つめあった後。互いに負けじと廊下を歩いた。並んで足早に進む2人。
「ナオミさん、廊下は走らないようにね」
「走ってません。先生こそ何ですか? その格好」
「三浦先生、今日、ナマズンをひょうたん池に戻すんでしょ? 副担任の私も一緒に挑戦するのよ! で、それは何?」
「チョコですけど、何か?」
「学校に食べ物、持ってきちゃダメでしょう?」
「ナマズンの餌ですが」
「……」
「……」
更にキッと見つめ合った2人は同時にドアに手を当て、理科室の扉を開けようとした。
(おいおい、何だか次第にナマズンが……、ああぁっ……)
理科室内では三浦が水槽の前で大慌てに。そして、2人が扉を開けた。
了
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