梗 概
恋愛は経費じゃ落ちない
「死んだ女の瞳が、まだ恋をしている」
2047年、新宿。
政府は少子化対策で「恋愛促進税制」を導入。成人に瞳孔センサー・アイリスの装着を義務化。
誰を何秒見つめたかで恋愛状態を測定。恋愛中は減税、半年スコアゼロなら重加算税と社会保障制限が課される。
既婚者にも愛情維持義務があり、視線データが低下すれば「冷却税」が課される。
副作用で代行恋愛業が横行するが、管理機関はスコア水増しを黙認。数字さえ出れば成功だった。
国税局調査官・大鷹大史(42)は代行恋愛業創設者マリアの変死を担当。
死因は心不全。死後72時間アイリスは恋愛値100%を示し続けていた。
捜査中、現役レンタル恋人・桐島リリス(25)と出会う。
彼女と古風な価値観の大史は反発し合うが、マリアが遺した「愛は終わった。でも数字は残る」をきっかけに共同捜査を開始。
マリアの部屋から恋愛値を操作する違法装置・オーバーライドの残留ノイズが見つかる。
死者のアイリスは誰を見つめ続けているのか。リリスは協力者として現れた管理機関法務局・白石蓮(34)に違和感を覚える。
第二の死体が発見。大史の妻・茉莉——税制度設計を主導した厚労省の官僚。
夫婦関係は冷え切っていたが、大史は妻を愛し、税金対策で週1回「見つめ合いタイム」を設けていた。死後もアイリス100%を示す。
大史が取り乱すのを初めて見たリリス。二人の間に信頼が生まれる。
茉莉のアイリスの異常データを解析。操作元のIPアドレスから死の直前に見つめていたのは——白石蓮だった。蓮を追い詰め、彼は自白。
5年前、恋人の千紗が税制のパイロット実験に参加。24時間視線監視で心を病み過労死した。スコア100%を示す。
管理機関とマリアは成功例と発表。茉莉は記録を改竄して制度導入を進めた。
「彼女を救えたのに、誰も止めなかった」
蓮は千紗を見殺しにしたマリアと茉莉にオーバーライドで脳内物質を異常分泌させ心臓発作を誘発。24時間の感情過負荷で殺害。死後も幸福な数値の中で生かし続けた。
「千紗は100%で死んだ。あなたたちの成功だ。同じ死で、永遠に眠ってください」
それは制度を利用した側・運用した側・設計した側への静かな復讐。
「まだ一人、残ってる」
蓮は自ら装置を起動。制止は間に合わず、アイリス100%で微笑みのまま息を引き取る。
「これで……千紗に会えます」
事件は技術的欠陥による事故として処理。税制も監視機構もそのまま残る。
後日、リリスは代行業を辞め店を開く。ふらりと現れた大史が声をかける。
「今夜付き合えよ」
リリスが微笑む。
「おっさん……アイリス反応しちゃうよ?」
「構わねぇ。恋愛は経費じゃ落ちねぇからな」
二人はアイリスを気にせず笑い合う。制度の中で生まれた本物の感情だった。
人間らしさは「測定誤差」にしか残らない。
それでも誰かと目を見て笑える瞬間があるのなら、この国はまだ心を失っていない。
文字数:1200
内容に関するアピール
【大鷹大史(42)】
国税局の恋愛税務調査官。既婚だが結婚は破綻気味で、自己過信から“おぢアタック”(若い女性に強引にアプローチする勘違い行為)を繰り返し煙たがられている。平成生まれなのに昭和的理想主義を引きずり、愛は打算じゃないと語るが、自身の矛盾にも薄々気づいている。
【桐島リリス(25)】
未来のレンタル恋人。恋愛はビジネスとして考えている。殺害されたマリアの上場企業に勤務。冷めた美人でサイバーパンク的虚無感。愛を信じないが、本当は本物を求めている。レンタル恋人ならではの特殊能力有。
少子化・離婚率増加による社会問題対策として制定された恋愛税。反発する者同士がタッグを組み、漫才をしながら税制度の闇を暴く話にしました。前回は定番パッチワーク展開の対処法を習作として挑戦しました。今回はAIが登場しない物語を目標にしています。大史の「理想」とリリスの「現実」が衝突しながら惹かれ合う展開も考えます。
文字数:400




