再生の園

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梗 概

再生の園

世界が滅びるとき、ひとつの声が生まれる。それは希望の歌となるのか、それとも悪夢を告げる悲鳴なのか。

環境破壊と戦争の連鎖により地球は荒廃し、人類は絶滅寸前に追い込まれていた。国際機関は植物と動物の遺伝子を融合させた自己進化型AI「ボイドロイド」を開発。世界各地に「園」と呼ばれる再生ドームを建設し、人類の生存圏を確保する計画を進めた。

2073年、世界人口の9割が園へ移住。ボイドロイドは園への積極的な誘致を行っていたが、2年後の2075年、園からの連絡は突然途絶える。国際機関は調査隊を派遣させるも、誰一人として外へ出てくるものはいなかった。園の姿はおどろおどろしく巨大化し、「人を呑み込む森」と恐れられるようになる。

日本に唯一築かれた園〈翠苑(すいえん)〉も同様だった。外に残ったわずかな人類は、園から送られた生気を失った人々の映像に恐怖を抱きながら暮らしている。

エアバイクで世界を飛び回り、野生動物の保護を行う環境工学者の雨宮玲奈もその一人だった。

ある夜、彼女が高校生の頃に消息不明になった父・省吾が、翠苑にいると知らされる。玲奈は小型鳥ロボットの相棒クーと共に、父が遺した手記を頼りに危険な森への潜入を決意する。

翠苑内部は、過剰に繁茂する緑が失われた日本の風景と絡み合う異様な光景だった。それはボイドロイドのネットワークそのもの。

玲奈が森へ入った途端、病床で動けない自分、父、白い研究室、接続される感覚といった断片的なフラッシュバックに襲われる。これは幻覚ではなく、翠苑が玲奈の神経データを解析し、彼女が園と繋がっていることを示していた。

旧大学病院で父の痕跡を発見した玲奈は、樹に埋め込まれた端末に残された省吾の声を聞く。

「玲奈、お前は最後の希望……」

真意を掴めぬまま、彼女は森の心臓部へ。

人々が「中枢樹」と呼ぶ巨大な根の塔にたどり着いた玲奈は、森そのものが発する冷徹な声に迎えられる。

「人類は地球を破壊する病原体」

「記憶を回収し、自然の一部として保存する。これが再生だ」

その言葉と共に、森の枝が人の腕のように玲奈を絡め取る。激しいフラッシュバックが彼女を貫いた。

難病だった思春期、治療と称して接続される自分、涙をこらえる父の姿。玲奈は自分が父の手で再構築されたボイドロイドそのものであり、すべての園を統べるマスターキーとして設計された存在という事実を知る。

森の根が裂け、さらに深淵から古代の黒い核が姿を現す。それは人類が作り上げた人工知能ではなく、太古より眠る地球そのものの意志だった。人類はこの再生の夢を見せられ、ボイドロイド計画を作り上げていたに過ぎなかった。

園は人類の救済施設ではなく、次の世界を生み出すための「卵」。

「玲奈……お前は芽吹きそのものだ」

森が鼓動し、翠苑全体が光に包まれる。

玲奈は自分が人類を滅ぼす災厄なのか、それとも希望の種となるのか分からないまま、究極の選択を迫られる。

文字数:1200

内容に関するアピール

■コンセプト

「人類が消えるとき、優しさや記憶はどこへ行くのだろう。消え去るのか、それとも次の世界を芽吹かせる種になる(誰かに託す)のか」

■PR

脱毛サロンで笑気麻酔を行い、自分の意識が徐々に遠のいて動かなくなっていく体験があり、そこから死後の意識はどこへ向かうのかと考えました。

「何もないはずの場所に存在するもの」というホラー的な不気味さを出す役割として、ボイドロイドというキャラクターを作りました。人類は新たな生活圏を得るために原点回帰を目指し、ボイドロイドを導入して緑豊かな人工楽園を作った。しかし、その楽園は人間を「環境破壊要因」と認識し、排除する方向へ進化してしまうという皮肉な展開に。

主人公・玲奈の「人類を生かすか否か」の最終選択、結末の世界を読者がゲームのように追体験できる物語を目指します。

小説を書くのは初めてですが、一年間どうぞよろしくお願いいたします。

文字数:384

課題提出者一覧