梗 概
純国産の王さま
その国の王はもう高齢で、さらに大病を患っていた。だが困ったことに、王位継承の候補とされていた王子は皆、早くに亡くなっており、彼の後を継ぐものはもう誰もいなかった。
建国以来続いてきた王位継承の伝統を何としても途絶えさせるわけにはいかない。そこで数年前から広く一般化している「機械式臓器」の移植によって王の病気を治療し、延命させることになった。できるだけ長く、何か解決策が見つかるまで。
機械式臓器による王の延命は、今回初めて発案されたわけではなく、幾度か俎上に挙げられては退けられてきた。これまで実現に至らなかった理由は主に二つある。
まず一つ目は、国の象徴たる王の体を機械化することへの忌避感だ。たとえ一部とはいえ、王の神聖な肉体を冷たい金属製の機械にするなど罰当たりだ、という声が多く挙がった。強固な反対派が広めた、「機械仕掛けの王」というセンセーショナルなワードの効果もあり、世論全体の反発を招いた。
そして二つ目はさらに深刻で、世に出回っている機械式臓器がすべて外国製だったことだ。国内で流通している大半が中国製とロシア製(次いでアメリカ製)で、国産は存在しなかった。王の体内に外国製の機械が混入することで、王族が連綿と継承してきた我が国固有の純粋性や神聖性が失われると思われていた。
つまりみんな、外国製の機械で駆動する王など認めたくなかった。そういった声を挙げる人々の多くが、中国製やロシア製の機械式臓器によって寿命を伸ばしていたにもかかわらず。
そこで、政府主導で国産の機械式臓器の開発に乗り出すことになった。「王の機械化には抵抗はあるが、伝統が途絶えてしまうよりはいい」「国産であれば我が国固有の純粋性は守られるはずだ」と世論も賛成した。
とはいえ、国内には開発に関するノウハウがまったくなかったため、国外から技術者を招くことになった。性能においては中国製が圧倒的で、ロシア製とアメリカ製は一段劣っていた。にもかかわらず政治情勢や国民感情を考慮して技術者はアメリカから招かれた。それに対する反発がなかったわけではないが、納得する意見が多かった。「何のノウハウもないし当然」「完全に国内で作るなら問題ない」「アメリカならまぁ許す」
その後、研究は順調に進み、小規模な工場で生産を始めることになったが、ここでまた問題が生じた。この国は少子高齢化のため、労働力が不足していたのだ。機械式臓器の普及によって人々の寿命は伸びているものの、いまの医療では脳の機能低下は抑えられない。結局、労働寿命は伸びず、働けない後期高齢者が溢れて社会問題になっていた。そして、若者はみんな工場で働きたがらない。
そこで私のように多くの日本人が技能実習生としてこの遠い異国に来て、機械式臓器を組み立てているというわけだ。でも、私たち外国人が組み立てた臓器を、国産なんて言っていいのだろうか?
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内容に関するアピール
50年後は、それほど遠くない未来だなと感じたので、2025年現在と地続きの世界や問題を描きたいと思い、王位継承や恣意的な排外主義、少子高齢化など今の日本で論じられているようなことを主題にしました。ただ、それだと捻りがなくて直接的過ぎるかなと感じ、「未来の日本かな」と思わせといて別の国の出来事だった、という話にしました。
50年後と思わせる記述が欠けている気がするので、技術の進歩や時代の変化などをもっと描いて説得力を出せたらなと思います。
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