梗 概
間違いのない人生
2075年、高度知能型伴走ツール(エンパワーナビゲーター:略称エンナビ)に、人々は日々の行動のサポートから、進学・就職・部活・アルバイト、果ては趣味や人間関係まで、人生の選択についてレコメンドしてもらっていた。人生において最良の選択を選び、クライアントの潜在能力を最大限に引き出すエンナビは、間違いのない人生を歩みたいという人間の欲求を満たすツールとして普及していた。
マジメな日常を過ごしていた17歳の少年ケンは、ある小説を読み、いままで味わったことのない興奮を感じる。ケンは、彼に小説を渡した男性(リュウ)との交流をはじめ、今まで信じて疑わなかった人生計画や選択に不安を感じ始める。ケンはリュウに自分が感じている不安について相談する。リュウは「ケンのエンナビにバグが発生している」と伝え、自分がデバックすればケンの不安は解消すると伝え、エンナビの修正を行った。
翌日から、ケンが変わり始める。新しいエンナビが、ケンが今まで気づいていなかった視点を与えてくれるからだ。学校・部活・バイト先・家庭で、周囲の人たちに向けて、いままでにない断定的な言葉を投げかけるようになる。「楽しく生きてないのは罪だろ?」「退屈な日常で平気か?」と言い始めたケンに、周囲の人々は困惑し次第に彼を遠ざけるようになった。一方、様変わりしたケンの行動に刺激され、彼の元にいままでとは違うタイプの人たちが集まってくるようになる。ケンは彼・彼女たちをリュウに紹介。リュウは、集まった若者たちに向けた私塾を始める。私塾の仲間たちとつるむようになったケンは、家庭・学校などで孤立。いままでのつながりを失い始めたことで、ケンは新しい種類の不安を感じ始めていた。
ある日、リュウはケンにリアリティショー「千ちゃんの幸せになりなさい!」への参加を勧める。その番組はリアル視聴が90%を超える人気番組で、MCの千寿千代子が、悩みを持つ人や罪を犯した人を救済する内容。番組は、まず参加者の悩みや罪を聞き、千代子が同情し寄り添う姿勢を見せる。その後エンナビにより、相談者の実態が報告され、状況が一変。千代子は、参加者の素直さの欠如と自我の肥大が要因だと断罪し、エンナビに従うことで幸せになれると約束させる展開がお決まりだった。
リュウはこの番組こそが自分たちを不幸せにしている元凶であり、千代子を打ち負かせば、ケンから離れていった家族や学校の仲間たちを取り戻せると伝える。
番組がスタートしケンの悩みを聞き寄り添う千代子。定番の展開から、ケンのエンナビによる報告が始まるが、エンナビは、エンナビの隠された役割と千代子の番組のプロパガンダを告白し始める。クライアントを成功に導くツールだと信じられていたエンナビは、社会を適切な人員配置に設計し、クライアントの欲望抑え精神安定を図るための管理ツールであることが暴かれる。
文字数:1181
内容に関するアピール
作品全体はコメディとして執筆する。ケンにショックを与える小説は村上龍の「69」を想定。
純粋な主人公ケンは周囲から評価される・褒められる幸せから、自分の欲望・欲求に気づいていく過程を描きたい。リュウは、ケンに自分の青年時代を重ね合わせて、ケンを他者評価の籠から、解き放つ存在。あらかじめ決められた社会の構造に疑問を持たず、他者や人工知能からの評価に従って生きていて楽しいのか?と問いかける。
ケンと対峙する千代子は、星野仙一と細木数子をミックスしたようなキャラクター。パッションの塊で、恫喝と派手な愛情表現で、周囲を統制するボス的なキャラ。
エンパワーナビゲーターは、ハエくらいの大きさの小型ドローンをイメージ。クライアントの物理的言動をすべて取り込み、クライアントを導くアドバイスをインカム型のイヤホンへ伝える。人間が思考していることは読み取れないが、感情は生体反応から読み取れる。
文字数:389




