不幸せなツインバース

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梗 概

不幸せなツインバース

この星の人類は、超天才的な知能を持って生まれ、時間とともに知能が減衰していく。

新生児は管理され、生後1時間で言語と数学を習得、0歳のうちに偉大な業績を残す。5歳までは新生児の奉仕、7歳までは国の要職を担うが、10代後半には知性を失った獣のような存在となって、国の外の森へ放たれ繁殖する。
保護者と呼ばれるハンターは、森で妊娠した女性を捕獲して新生児を得るが、ある時期から保護数が激減し、社会は破綻の危機にあった。

8歳の保護者アナムは、ある日脳内の声に導かれ、森で一人の妊婦に出会う。テレパシーの主はメノンと名乗るその胎児だった。
メノンは、アナムの一卵性双生児だという。かつて胎盤を共有していた時、アナムに栄養が偏り未熟児となったことで生まれ損ね、母体とともに森に還ったが、生まれないまま知能を維持していたのだ。
だが森では知識を得る機会もなく、野生の母に閉じ込められており、助けを求めていた。アナムはメノンに学問や国について教え意気投合する。

国では、短いスパンで指導者が変わってしまう人間に代わりAIがトップを務めていたが、メノンは、自分ならAIよりも良い統治で新生児が激減する危機を解決できると主張する。二人は協力し、被差別層のローティーンを扇動したクーデターを成功させ、統治者になる。

メノンは胎児の声を聴く装置を作り、妊婦をかき集めては「前世の記憶」を尋ねる。決まって胎児は「もう一つの宇宙」について語り息絶える。やがてメノンは、「この宇宙はもう一つの宇宙と双子のような構造を成していて、臍の緒で栄養がやり取りされるように、ブラックホールを通じて、互いの宇宙に住む人間の魂=知能的複雑性の総量を取り合っている」と突き止める。かつては両宇宙の人間はどちらもまっさらな知能で生まれ、成熟し、やがて知能を手放して老いていく成長曲線だったが、向こうの人類が老いを克服し寿命の限り知能を高めるようになったためこちらの宇宙の新生児が天才になり、ついに向こうの人類が不死を開発したため出生数が減っていたのだ。

メノンの命令で、アナムは兵を率い「宇宙間羊膜」を超えもう一つの地球へ降り立つ。双子人類を皆殺しにし知能を取り戻す計画だ。しかし地球人は殺意に漲る兵たちを歓迎する。技術の反作用で子を作らなくなっていた地球人にとって、子どもたちの軍隊はあまりにも愛らしかったからだ。またアナムたちにとっても成熟した大人の姿は新鮮で、戸惑いを隠せない。

地球人類は手料理を振る舞いながらアナムと対話し、不老不死の技術を凍結。それが幸せだとわかっていたが、きっかけを持てなかったのだと感謝する。

アナムは、テレパシーでメノンに対し憎むことをやめるように諭す。メノンは、母や社会を憎み、そして何よりも栄養を奪い自分を置いて生まれたアナムを憎んで双子宇宙に重ねていたのだ。アナムはその憎しみを受け止め、メノンに「生まれたらどうか」と言う。

文字数:1200

内容に関するアピール

プラトンの「イデアの想起説(アナムネーシス)」に着想を得ました。
想起説では、人は誕生の衝撃で記憶を失っているだけで、美しいものを見ると前世(イデア界)の断片を思い出すとされます。
もしイデア界こそが私たちが住む宇宙で、私たちにとっての死後の生にあたる世界にもう一つの社会があったとしたら、そしてその住人が地球に攻め込んできたら、と想像しました。

アナムとメノンが協力してクーデターを起こす前段までは二人を相性の良いバディとして描き、メノンが双子宇宙を突き止めアナムに破壊を命じる後段ではメノンが憎しみと剥奪感に囚われていく様子を描きたいと思います。

アナムは、毎日の知能テストと、「馬鹿になる」と言われている10歳の誕生日に怯えて生きていますが、メノンに対し「誕生の衝撃は知識を忘れさせるかもしれないが、それでも母体を出て生まれるべきなのだ」と話すラストと同時に、10歳になる朝を迎えます。

文字数:392

課題提出者一覧