人工雪の降る地で

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梗 概

人工雪の降る地で

さる北の帝国。皇帝⑩は権力闘争に疲れ、権力を放棄していた。だが皇妃ケテワンはそれを快く思っておらず、⑪を皇帝とするクーデターを起こし、⑩を死に追いやった。

父殺しの汚名と共に即位した⑪。母の家の意向で皇妃は弱小貴族出身の少女Aとなった。だが⑪の権力基盤は決して強固ではなく、反発する大貴族の蜂起により⑪はシベリアの収容所に幽閉される。母を含む⑪派の貴族は粛清された。彼が生かされているのも次の皇帝が決まるまで。だがAは母家から切り捨てられながらも、懸命に⑪を支え続ける。だが皇帝が貴族と接触を保つことを脅威とした貴族の指示によってAは殺された。方法は収容先で極限の生活をしている皇帝に極寒の中麻袋に入った穀物を砕く作業をさせ、手先の感覚も無くなった頃に縛られたAが入った袋を転がし、皇帝自らの手で殺させるというものだった。

⑪一派という敵を失った大貴族は分裂し権力争いが始まる。見かねた民衆によって⑪は担ぎ上げられ、皇帝の地位を取り戻したが、彼は絶望の中にいた。

⑪は大貴族を粛清していった。そしてその尖兵として彼は収容所の看守を使った。決して幸福追求しないことを条件に彼らを生かし、破ったものは腐敗したと処刑して恐怖政治への不満を転嫁する先としたのである。

だが、ある看守は子をなしてしまう。怒った皇帝は看守に子の母を殺させると生まれた子にAと名付けた。そして彼女には鷲型ロボットOがつき、Aの視点から皇帝は看守を監視し続けると告げた。生まれた日に母を失い、殺したのが父である。しかも命じた皇帝の目を常に肩に止めている。彼女の傍らに立つのはOのみだった。

皇帝は侵攻してきた西の大国を人工雪による冬将軍で撃退する。内外の敵を壊滅させた⑪は盤石な体制を築いた。

Aは天才だった。彼女は人工雪をもたらした人工粒子の構造が太陽光を取り込み回折させることに注目した。回折乱反射を繰り返した太陽光を粒子が相互にやり取りする様子を取り込むことで、AIの挙動に生命要素を添加したのである。Oを命ある友人とすることは彼女なりの⑪への抵抗であり共感だった。その姿に⑪も心を開いていく。Aはその才能を発揮し、国内のAI産業は皇帝の下で発展した。Aは若くして摂政となる。

Oは自らの存在が彼女に落とした影を理解しており、その罪悪感に苛まれていた。ある時OはA暗殺計画に気づき、Aそっくりのアバターを作り身代わりとなることで阻止しようとする。だが直前で気づいたAによって最終的に身代わりの姿のままOは生き延びAは命を落とした。だが、Aの最期の言葉「罪に生まれて、善をなし、罪を善としてしまう。その矛盾が生命なの。私にそれを信じさせて」を受けて、Oはその姿のまま皇帝に謁見を申し出る。皇帝はOを摂政と呼んだ。

その事実はそのままAIに人権を与える動きとなる。やがて世界はその是非を巡って二分されることになるが、それはまた別の話。

文字数:1194

内容に関するアピール

・文字数節約のため、名前は置換しました。

⑩:ヴィッサリオン、⑪:グローズヌイ、A:アナスタシア(作中に二人のアナスタシアがいます)

・梗概から削除したグローズヌイの復讐の一幕

彼はまず収容所の囚人を全員連行した。恐怖に震える囚人らから二人を呼び込むと、一人を話すことも抵抗することもできない状態にした上でもう一人に「余を楽しませよ」と言って嬲り殺しにさせる。その上で残った方を同じように拘束して新しく一人を呼び込む。自分のしたことをこれからされるという恐怖を味わいながら皆死んでいく。

・コメント

社会主義体制はロシアの伝統的な国家構造(初代ツァーリ:イヴァン4世)を取り込んだことで20世紀型独裁体制の代名詞となりました。AIに人権を与えるという思想が後の世で先進的となったとき、その始まりに同様の地を選んだら、そんな想像を込めました。

文字数:365

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