心理気象学総論 ~弥生式クレーム対応の例より~

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梗 概

心理気象学総論 ~弥生式クレーム対応の例より~

ARによって現実世界を強くデフォルメする技術。AR世界では人間関係から物理現象まで全てが強くデフォルメされた形で装着者に伝わり、装着者のフィードバックをAR側のAIが現実に最適化された形に変換する。(運動は最適化されないが、言葉など情報は最適化される)
ARの世界観は個人差が大きくデフォルメの方向性は十人十色だが、人からの働きかけについては気象的なデフォルメがされることが多かった。故にARの世界で生きる者にとって、気象とは相互に働きかけを行う対象であり、AR常用者が珍しくなくなった未来の世界ではAR世界で気象と関わる方法について学ぶ学問として「心理気象学」が誕生した。

これは心理気象学の礎となった初期AR常用臨床研究の記録である(主人公は20代女性)

<現実>
模試の結果が届く。親に「こんなものか」と言われ続ける。

やがて就職した主人公はコールセンター業務でうつ病を発症しAR常用研究に参加する。リハビリとしてAR常用での職場復帰となる。

<AR>
水田では神々が作業している。主人公は嵐に備える舞と祝詞を稽古する(教えるのは狐)。稽古には本番ではまだやったことのない演目も含まれていた。

奉納の煙が横へ流れ神々がざわつく。台風が水田を襲い、主人公はセオリー通りの穏やかな抑揚で祝詞を唱え舞い、嵐は弱まる。※主人公のマニュアル通りの謝罪が祝詞と重なる。

しかし翌日も翌々日も嵐は来る。主人公は奉納の煙を見上げ、「燃やす稲が無くなったら、神様も消えちゃうんでしょう?」と呟く。狐は「おぬしはいつも鎮めておる。それで稲は育つ」と言う。

<現実>

クレーマーに対して主人公は謝り続けるが、謝罪は相手の「勝利の燃料」になり状況はエスカレートしていく。同僚は「あれ大丈夫なんですかね?」上司は「さてね」と首をかしげる。

<AR>

連日の台風で苗は倒れ畦は崩れ、神々も追いつかない。

声がかすれるほど祝詞を重ねた末に主人公は問う。「あいつを成敗する方法ってあるの?」狐は「一度踏み出せば引き返せぬが」と方法を告げる。それは稽古しながらも本番では舞ったことのない舞だった。狐は「田がおぬしの舞台で、空がきやつの舞台。己の舞台に引き込んだ側が勝つ」と告げる。

長き戦いの末、遂に嵐の荒魂が主人公の舞台たる田に乗り込んできた。荒魂は翁の姿で現れる。「……こんなものか」という幻聴。だが狐の「さあ蟷螂の斧をくれてやれ」という言葉に背中を押され主人公が一歩踏み出すと雷ははじけ、翁は消えた。

<現実>

相手は婉曲的な人格攻撃を続ける常習クレーマーだったが、主人公はついに法的措置にたる失言を引き出した。なお奇しくもクレーマーは主人公の親であった。

<AR>

主人公の勝利は「嵐に勝った巫女の体験」としてのみ知覚される。

主人公は「天気って変えられちゃうんだね」と言う。「知りたくなかったか?」と問う狐に主人公は「知らなくちゃいけなかった」と答えた。

文字数:1198

内容に関するアピール

恐怖の対象として設定したのは他者からの否定です。

誰しもが同じ世界にいながら自分だけの世界に生きています。その折衝を委任できるツールがあれば…

電話で謝罪するときには相手に見えていなくても頭を下げた方が良いなどと言いますが、この話では能の真似事をしながらクレーム対応しているわけで、それをなるべく格好よく書きたい馬鹿話です。

<対決シーンサンプル>

風が乱れるほど逆に音は消えていった。 雷鳴はほどけ、間を持ち、囃子の拍へ近づく。 田の水面は黒く艶を帯び板のように光を返した。ここは田であり同時に座なのだ。畦の向こうに道が一本現れる。先程まで無かった細く白い風の橋掛かり。稲穂が一列頭を垂れる。

彼女は踏む。どん、と板を打つような音がした。今や足元に広がるのは檜板だった。どん、……どん。その拍に合わせて風が揺れ水干が震えた。 彼女にとって初めての演目。その幕が開いたのだ。

文字数:378

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