残されたパイナップル

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梗 概

残されたパイナップル

ある日、高校生のシンのもとに一つの荷物が届く。箱の中には、丁寧に梱包された一つのパイナップルが入っていた。この世界で自らサインアウトした者は、パイナップルとして世界に残る。シンのもとに届いたパイナップルは、かつて父であったものであった。

 

父は物静かな人物だった。シンは中学生になってから、年に一度、年明けに近所の喫茶店で父と会っていた。父は毎年のように「学校はどうだ」「友達はいるか」「母さんは元気か」と毎年同じ質問を繰り返し、最後にシンにお年玉を渡す。

シンは父のことをほとんど知らない。父はギャンブルと酒が好きな、世間的に言えばダメな父親だったらしい。母はそんな父に愛想を尽かし、赤ん坊だったシンを連れて父のもとを去ったらしいが、その話を母から直接聞いたことはない。母は父について何も語らず、いつも遠くを見るような目をして、どこか現実と噛み合わない人物であった。

 

シンは父であったパイナップルを前に戸惑う。今は一月、本来なら父とは喫茶店で会っていただろう。だが父は今年、なぜか直接家を訪ねてきた。シンはそのとき、友人の家に遊びに行っており不在だった。シンが帰宅すると、父の名前が書かれたお年玉の袋がテーブルに置かれていたのである。

父は自らサインアウトするほど、つらかったのだろうか。だが普通、最後ぐらい子供の顔を見たかったのではないか。サインアウトする前に、もう一度ぐらい尋ねてくればよかったのではないか。会わずに去ったのは、自分がその程度の存在だったからなのか。シンはパイナップルを手に取り、部屋へ戻る。

 

この世界は仮想世界であり、人間の身体は現実世界で管理されていると、シンは学校で繰り返し教えられてきた。この世界では、寿命や病気、事故で死んだ人間は火葬場でダイヤモンドになる。サインアウトした者だけがなぜパイナップルになる。サインアウトの先に何があるのかは誰にも分からない。

そもそもなぜパイナップルなのか。普通のパイナップルと、人であったパイナップルに違いはあるのか。シンは普通のパイナップルと父の違いを確認するため、スーパーへ向かう。

 

パイナップル売り場では、一人の老人が佇んでいた。老人は、シンが手に取ったパイナップルはかつて人だったものだと告げる。老人は人であったパイナップルを、匂いと重さで見分けられること、アドレス検索アプリで見ると404と表示されることを教えてくれる。シンは老人に、なぜ人であったパイナップルを回収しているのかと聞く。老人は笑顔で、人だったパイナップルはとても美味しいのだと語る。その老人の笑みに、シンは強い恐怖を覚える。老人の頭上には404と表示されていた。

 

逃げるように帰宅したシンは、アプリを試す。だが、なぜか父であったパイナップルには何も表示されない。

そのとき、帰ってきた母の頭上に404が浮かんでいることに、シンは気づく。

文字数:1179

内容に関するアピール

私にとって怖いこと、トラウマになっているものは、誰かに価値がないと思われること、誰とも関係性を持つことができないことかと思っています。それが親であったときは非常に悲しい。そういった話をそのまま書くと暗くなりそうだったので、パイナップルを取り入れてみました。肉を柔らかくしてくれるので、きっと暗い話も柔らかくしてくれると信じています。パイナップルがSF的なガジェットになりえるかどうかはよく分かりませんが、仮想世界の設定でどうにかならないかということで、今回の梗概になりました。

ちなみにパイナップル食べると口の中がピリピリするあの感じ、私はあれが好きなのですが、それを魚介類(カニやら牡蠣やら)でも感じます。食べるとピリピリして口が痒くなるのです。今までそういう食べ物だと思って生きてきたのですが、実はそれが、アレルギー症状だったということを去年知りました。怖いです。

 

文字数:383

課題提出者一覧