生体発電SF

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梗 概

生体発電SF

幼い頃、震災で生体発電に救われた経験をもつ主人公は、その技術を善であると信じ、国民への義務化に賛成する医師となっていた。
ある日、主人公の姉が献電の帰りに意識を失ってしまう。主人公が発電装置の暴走によって、極度の低血糖であると気づいた矢先、主人公は出頭を命じられる。
そこで政府が義務化推進のためにこの事実を隠蔽していたことを知ると、姉の身の安全と自身の信じた道への義憤に駆られた主人公は政府公認の対策チームを率いて、欠陥の解決に乗り出す。

症例の分析を進める中、欠陥の原因は、政府の需要を満たすための高出力化が発電装置の制御不能な暴走を招いたことだと突き止める。
増幅器を外せば必要な需要を満たすことができない。政府から、「発電量はそのままで失神を防ぐ」という無理難題を押し付けられる。

追い詰められた主人公は、義務化反対派に襲われる。襲撃者は過去に主人公を救うために電気を分け与え、栄養失調で寝たきりになった恩人の夫だった。
幼い主人公は知らなかったが、主人公の両親は世間からの非難に耐えきれず自殺していたという家族崩壊の真実を告げられ、主人公は絶望する。

主人公の体に埋め込まれていたGPSによって政府に救出された主人公は、意識を取り戻した姉の病室を訪ねる。
姉の優しい笑顔にこれまでのことを洗いざらい打ち明け、自分のせいで家族が崩壊してしまったことを謝る。
姉はそんな主人公をそっと抱きしめ、主人公と姉と二人で生きてこられたことがとても嬉しいのだと語る。
その時主人公は新たな生体発電機構を思いつく。

主人公は、過剰に電気を分け与えると、酵素が一時的に破壊され糖欠乏を回避し、その後、破壊された酵素が再生すると同時に代謝能力を高め、より多くの電力を生み出す酵素になる、再生機構を発明した。
この再生機構が普及すると、人々は誰かに分け与えることで発電効率が上がることから、まるで筋トレのように発電を行うようになった。
50年後、日本は発電大国として君臨するようになった。しかし、人間の過剰な善が生んだ発電ブームは深刻な食料不足を引き起こした。

この自体を予測していた主人公は、今や日本のトップとして「飢餓に喘ぐ日本国民を発電資源として食料をもつ海外へ分け与える」という国策を打ち出す。

発電資源として第一陣が飛び立とうとする中、主人公は全体に声をかける。
「過剰な善が悪に変わるのであれば、過剰な悪を善に変えることもできる。私はみなさんを信じている」

文字数:1012

内容に関するアピール

医療機器を埋め込むと、多くの人が生体発電を思いつくだろう。実際に各国で生体発電を利用したデバイスは研究されているが実用化には至っていない。

そんな技術がもし実装されたなら?そして、それが電力需要を賄うようになったらどうなるだろうか?そんな想像で物語を作成してみた。

テーマとしては「過剰な善は悪を生み出すが、その悪は乗り越えらえる」というもの。ただ、現実には受け入れづらいような価値観を書けるのがSFとのことなので、最後には行き過ぎた善を描いている。

また、今回は課題文とSFの書き方を確認し、以下の課題を設定した。

「ひとまとまりの読んですぐわかるものである」

「どのように終わるかの効果的配置とは、この順序でしか到達できない、と感じる終わり方になること」

この2点が達成できているか、評価をお願いいたします。

 

文字数:350

課題提出者一覧