繋心炉籠(ケイシンロロウ)

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梗 概

繋心炉籠(ケイシンロロウ)

能力をデータとして保存できる技術が実現した未来。才能のバックアップを目的としたA都市で暮らす主人公は、自分自身に生きる意味を見出せずにいた。別の役割を求めて様々な能力をインストールし続けた結果、脳が過負荷に耐えきれず萎縮し、脳データ機能を使えなくなってしまう。主人公は治療という名目で、都市から外部の村落へと追放される。

村では、自力で技術や知識を身につけて生きる人々がいた。主人公はその中で助けを受けながら生きる術を学び、時を重ねることで、初めて「繋がり」を知る。村全体で助け合う力強さを実感し、彼は生きる意味が他者との関係性の中にあることを知った。

そんな折、A都市から召集がかかる。第4次核戦争によって最も荒廃した土地に建てられたA都市では、都市拡張のたびに核汚染された土壌を遠方の核洗浄地へ運搬する必要があった。運搬にはAIビークルが使用されるが、核汚染を受け入れる地域への配慮から人間が同行することになり、主人公が選ばれる。村を人質に取られた彼は、やむなく任務を受け入れる。これまでの生活によって脳が回復していた主人公は、核洗浄地での説得に必要な能力として「どんな言語であっても話せる能力」がインストールされる。

村の人々と別れ、主人公はAIビークルと共に核洗浄地へと向かう。主人公は繋がりの暖かさを求め、AIとの会話に没頭した。初めは事務的だったAIも、主人公の精神状態を分析し、人間的な応答を行うように変化していく。いつしかAIには、心に似たものが宿っていた。道中の困難を共に乗り越えるうち、二人の間には言葉を超えた信頼が芽生える。

ついに核洗浄地に到着するが、街の内部対立によって施設が稼働停止に陥っていた。科学的には汚染の危険はないと証明されているにも関わらず、人々は感情的な反発を続けていた。主人公の能力で言葉は通じるものの、心は動かなかった。AIは核土壌を無害化する唯一の手段として、自ら焼却炉の炉心へと突入し、核土壌を完全に処理して消滅した。別れ際、AIは言う。「私のコピーに、この旅の記憶を伝えてください」と。

騒ぎは嘘のように収まり、群衆は散っていく。残された主人公は、AIの死を深く悼んだ。人々が再び日常に戻る中、主人公は犠牲を繰り返さないために、街の人々と核廃棄についての対話をまた始める。

数年後。主人公はかつての村で、他者と手を取りながら暮らしている。その傍らに、以前と同じ型のAIビークルがあった。同じ形、同じ声、同じモデル、同じ記憶。それでも、どこか雰囲気が違うことに気づく。

「エラー。行き先が不明です。行き先を教えてください。」
「まるで赤ちゃんみたいだな。」

主人公はその車体に手を触れ、微笑んだ。

「君が見れなかった世界を。君の子供と共に。」

彼は再び核汚染された世界を巡る旅に出る。

与えられた言葉ではなく、繋がりから得られる心を、誰かと分かち合うために。

文字数:1191

内容に関するアピール

⚪︎アピール

言葉を交わすことが重要なのは言うまでもないのですが、本当はその先にうまれる関係性、繋がりこそが最も重要なんだ、と言うことをテーマにしてみました。

AIとの関係性は現時点では言葉を交わすだけにとどまっている、と私は考えます。

未来では、AIが相手を思いやることで、心が生まれ、関係性ができるといいな、と思ってこんな設定にしました。心が生まれるメカニズムはいっぱいあると思いますが、思いやりから始まる心の方がなんだか良い気がしませんか。

展開としては、「行って帰る」物語をベースに、冒険小説にSFエッセンスを加えたものです。読み口はライトに、テーマはしっかりと、のバランスを目指します。

⚪︎自己紹介

アイデアの種だけ作ってはポイしていたので、全然小説を書き上げたことがありません。とにかく形にしたくてこの講座に参加しました。

今後の実作に怯えながらワクワクしてます。

文字数:382

課題提出者一覧