梗 概
本当の死
主人公は戦争の爆撃音を聞くたびに、「生きる意味などあるのか」と責め立てられるように感じていた。決まって「生きる意味なんてない」と答える主人公は無気力に日々を過ごす。主人公は、色覚障害のせいで世界がいつも白黒にみえ、それに釣られて、周囲の人々が当たり前に語る希望を偽物だと軽蔑していた。
ある日、父に連れられて、地下室を訪れる。そこには機械に繋がれ、植物状態となった少女が横たわっていた。主人公の姉は、この少女の世話役として選ばれていたが、すでに戦争で亡くなっている。主人公はその代わりを務めるよう命じられる。
補佐役の女性から最低限の手順を教えられた後、主人公は仮想空間で少女と会う。そこは美しい風景が広がる場所だったが、どこか殺風景で、囚われた少女の心を表しているようだった。少女は、自身が戦争に用いられる装置の一部であり、その為に身体を失っていることを淡々と語る。そして「もし私が死んだら、あなたが代わりになって」と主人公に告げる。死にたいと思いながらも、無価値なまま死ぬことを恐れていた主人公は、その役割を引き受けることで初めて、自分の死に意味が与えられたと感じ、安堵する。
主人公は与えられた役割に準じ、丁寧に少女の世話を続けた。仮想空間で少女との逢瀬を重ねるうちに、主人公と少女の間には深い絆が結ばれていた。主人公はいつの間にか、死にたいという衝動が消えていることに気づく。
しかしある日、主人公は突然その役目から外される。主人公の色覚障害が、装置に不具合をもたらすと報告を受けたためだ。使命を失った主人公は、再び無価値な存在に戻ったように感じ、絶望する。しかし、主人公の働きに感心していた補佐役の女性が、立ち止まるなと主人公の背中を押す。主人公は新しい生きる意味を探し始めることにした。
やがて主人公は、少女が死んだにも関わらず装置が動いていることを知り、真相を確かめるために仮想空間へ向かう。そこには、以前と変わらないままの少女が存在していた。
少女の精神は、主人公が初めて会った時点ですでに失われており、これまでの交流は全て、戦争用の装置に組み込まれたAIが少女の体に憑依することで作り出した偽物だった。だがAIは、少女の肉体が完全に死んだ瞬間に「死の恐怖」を知り、遡行的に主人公をかけがえのない存在だと認識したのだと告白する。主人公を殺したくなくて、役目を外すための嘘をついたのだ。
少女の姿でAIは主人公に逃げてほしいと懇願する。この装置に入れば、確実に死を迎えるからだ。主人公は、命じられた死ではなく、自分で選ぶ死とは何かを考える。そして静かに、その手をとった。
「嘘の中の、本当の私たちを大切にしたい」
主人公はそう言って笑う。世界は相変わらず白黒のまま、主人公を死に追い立てる。けれど、その選択だけは、自分の意思だった。装置が起動し、一つの機体が空へと飛び立つ。
文字数:1193
内容に関するアピール
私にとって、1番の恐怖は死です。死の何が怖いかといえば、2つあって、生理的にどうしようもなく感じる恐怖と、自分が無価値のまま死んでしまうという悲しみに似た恐怖です。
その上で、どうすれば笑って死ねるのだろうか?私に生きる価値があれば、死の恐怖を克服できるのだろうか?と考えました。
しかし、私の中でどうしても生きる価値自体が信じれない、嘘だ、という思いが強く、だからこそ笑って死ねない、死ぬのが怖いんじゃないかと思いました。でも多分、笑って死ぬためにはこの嘘を信じなければならないかも、と思いました。
そこで物語では、仮初であるAIとの日々を大切にする主人公を描きました。嘘を大切にするからこそ、能動的に死を選ぶ。はっきり言って、自分ができるかというと疑問ですが、主人公に希望を託してみたいと思っています。
裏課題として、前回講義の「読者を裏切る」ことを目標にしています。
文字数:386




