What Mari Didn’t Know

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梗 概

What Mari Didn’t Know

2075年、万博開催を控えた渋谷。天蓋に覆われ、特殊な光で全ての色が人為的に排除された都市。

主人公マリは、このモノクロの街で生まれ育った女子高生である。彼女は全時代・全文明の芸術を学び、絵画・音楽・詩・建築すべてを“言語的”に理解しつつある。彼女の脳はAI接続型BMI〈Generative Engine〉と直結し、思考を通じてこの世界の美を形にできる。AI芸術の申し子である。

ただし〈色〉という感覚情報だけは一度も経験していない。

AIの生成技術によって、あらゆる芸術を自動生成できる時代を迎え、人類は尊厳を失い、拠り所として〈美〉という概念を問い直そうとした。

「美とは、知識体系として還元可能なものか、生の中で創発されるものか」

渋谷はその問いを確かめるための箱庭で、マリはその重要な被験者だった。

色のない世界で美を理解した人間が、初めて「色」を見るとき

  1. その理解は更新されるのか
  2. 彼女の創作に色は現れるのか
  3. もし現れるなら、それは「美」が主観的で生成的である証拠となるのか

それらの答えを、政府の指導者たちは求めていた。

彼女は自身が実験の被検体であることに気づき、街からの逃走を試みる。その過程で、覆面グラフィティアーティスト〈Glitch〉と出会う。彼は地下に広がる色のある世界、旧渋谷〈シブチカ〉出身で、違法な落書きを通じて世界に主張する。彼はマリにグラフィティの流儀を教える。彼は語る。

「そもそも芸術を美で語るのが誤っている。色なんていらない。もはや作品さえな。それは生き様だ」

彼は生まれつき色を知覚できなかった。それ故に自身の審美眼に劣等感を感じていた。しかしこの街ならば色を超えた美を見いだせると信じていた。

「俺の描く絵には何かが欠けてる気がする。この街なら確かめられるかもしれない。俺の美と世界の美が同じはずだってことを」

そういうGlitchにマリはこの世界の美を見せる。彼は微笑み、美について何かを理解すると同時に監視ドローンの狙撃で倒れる。その身体から流れ出た鮮血。しかし、その生の証さえも白と黒に変換される。マリはショックで倒れる。

マリは拘束され、実験は最終段階へ。グラフィティとネオンに満ちた混沌の街であるシブチカを訪れ、知識としてすべてを理解している彼女は、初めて“色を見る体験”をする。彼女はそこで答えを得る。

万博開幕の日、マリは実験成果を発表するため壇上に立つことになる。壇上だけ色が解放される。彼女は〈Generative Engine〉を起動し世界に答えを示す。生成されたのは一缶のペンキ。彼女がそれを宙に投げると、缶は爆発し、「赤」が飛び散る。続けて至る所で無数のペンキ缶が爆発し、街は一瞬で極彩色に染まる。彼女は取り押さえられる。悲鳴と歓声が交錯する中、マリは頬を伝う赤を見つめる。かつてGlitchが見せた本当の血の色を知る。マリは問を超えた答えを証明しようと試みた。

文字数:1197

内容に関するアピール

かつて芸術は、技術を持つ者だけに許された営みであり、自己の存在意義や誇りと結びついていました。しかし、進化の著しい生成AIはその制約を解放し、やがて誰もが想像をそのまま形にできる時代が訪れるはずです。そこでは創作過程は消え、創作という活動と生み出される作品が殆ど同義になります。

では、過程を失った芸術に意味はあるのか。自己表現の要素が薄れ、自己の関与を欠いた作品を前に人はこう思うでしょう。「自分が作る必要ないじゃん」と。その感覚はやがて人生という作品にも波及します。「自分が生きる必要ないじゃん」と。利便性の代償に、人間はより本質的で重要なものを失ったのかもしれません。

それでもなお、意味を探し続ける人間の物語が描けたらと思っています。

梗概が設定と主張の構造的な部分に寄っているので、実作では物語として面白くなるように、キャラクターとストーリーをきっちり膨らます部分に注力したいです。

文字数:393

課題提出者一覧