梗 概
ロスト・ロスト・ロス
少女、望空は幼少から知能の発達に障害が見られ、物の名前や概念を理解、記憶することが苦手だった。しかし、自動車との事故で頭に強い衝撃を受け、脳内に自身の脳細胞をクローニングした補助脳を増設する手術を受けてから、彼女の認知や記憶の能力は劇的に改善する。ただし、それは望空が元々持っていた直感やイメージの力による論理思考力の補完によるもので、望空の感覚には、物の名前や考え方が色や形、音として感覚され、思い出される。
望空が知的な振る舞いをしだしたことで彼女の両親は喜び、望空もまた自己効力感を持ち始めるが、次第に彼女は、世界を構成する様々な物の名前や考え方が無数にあることにうんざりし始める。
何を見ても、考えても、既に先人が発見し、分類整理された知識と学問の体系が膨大にあるのだ。掘っても掘っても掘削済みのラベルがある鉱山みたいなものだ。彼女は、世界に可能性など残されていないのではと恐れつつ、五感の上で肥大化する世界像に疲れ、悩む。
自分が見ている世界像を外部記憶化し、吐き出すために創作していた絵画や音楽が話題になり、望空は斬新なイメージを生み出すアーティストとして人気を博す。成人し、家族を作り、海外でも活躍を始めた望空は、様々な国を巡る中で誰にも教えられたことのない球体がいつも上空に浮かんでいるのを見るようになる。それはまだこの世にない概念で、世界そのものの状態を彼女が感覚した像だった。日に日に球体の色が鮮明になる中、一方で球体が歪んだり不協和音を奏でたりしていることに気づく。望空は錯覚ではなく、世界が不安定になりつつあることに、恐怖を覚える。
望空はその巨大な球体をモチーフに作品を作り、妄想症、理想主義者として避難を受ける。一方、それが「個人の理性や構造主義的な論理分解」では見えていなかった世界の姿だと直感する人々も増えていく。やがて望空の直観的知覚能力は、もともと人類に備わっていた能力であるという仮説が提唱され、その能力は人々の中で徐々に花開き、様々な物事の地球全体への影響を直感できる人間が増え、全能と幸福を感じながら、望空を先頭に人々は進化を始めていく。
しかし、望空は、彼女のことを絶望を招く危険分子とみなすテロリストに頭を狙撃されてしまう。命は取り留めたが、その能力は失われ、同時に人々の中に芽生えた能力も徐々に衰えていく。その能力が忘れられ、集団幻想だったのだと言われる中、緩やかに失われていく知性と記憶の中で、望空は常に驚きのある新鮮な世界を幸せに生き、その子供達、孫達が代理人として彼女のメッセージを発信する。
「世界が見えないことを恐れないで。それは希望。世界が悪く見えることを恐れないで。それは変えられる」
その言葉は、百年後の今、世界惑星管理局の礎石に碑文として刻まれている。
それは、“喪失が失われていた”頃への嘆きと呼ばれる。
文字数:1199
内容に関するアピール
怖がりなんですよ、私。
ホラーもダメ。文字ならなんとか……
しかし、映画、ドラマ、音声……五感に訴える恐怖がダメです。幼い頃はお化け屋敷とかジェットコースターもNG。
今思うと、リスクとか不安定とか、突発的で先の見えないことが、迫ってくる感じが受け付けなかったんでしょう。
だから、小規模な人間関係、安定した生活、手堅い職業、多くを望まず慎ましく過ごすべし、と思って生きてきました。
でも、というか、だから、最近は世の中の方の方がずっと怖いです。
曖昧で、先が見通せず、ころころと情勢の変わる世界、そして何が本当なのか、信じてはいけないと言われる世界です。
何より怖いのは「それが当然だよ」と皆が思いつつあることに本気で恐怖を覚えます。
行き先の明らかなジェットコースターなんか、それに比べればちっとも怖くありません。
世界に希望があると、身体で感じることができれば、と思いませんか。皆さん。
文字数:387




