梗 概
19th Parallel North
近未来、太平洋の孤島にて人間と動物のキメラに対する倫理を問う物語。
ストーリーは書簡形式で進む。語り手は日本に住む三十歳位の男性会社員。ある日、米軍・横田基地から思いがけない荷物を受け取る。中には手紙の束と、米軍から手違いにより基地内で手紙を止めてしまったことへの謝罪が記された文書が入っていた。
手紙は友人が書いたものだった。友人は女性で太平洋の孤島に一人で駐在し、島の保守や米軍空港の雑役をしている。彼は懐かしさが込み上げたが、同時になぜ急に二年分の手紙が届いたのか不安も感じ、SNS、メールや電話で彼女にコンタクトをとるが連絡がつかなかった。
手紙を古い順に読み始めると、機密上の理由で日本へのインターネットが利用できず手紙を書いたこと、島での生活やときおり訪れる米兵との交流、肉体労働はきついが、都会から離れ人間関係のしがらみから解放された島での気楽な暮らしぶりが書かれていた。
手紙を読み進むうちに、島には一頭のイルカがいて彼女をサポートしていることがわかってくる。そのイルカは賢く、人間の言葉を完全に理解するだけではなく、人間のような豊かな感情も持ち合わせていた。
何通目かの手紙に、海底で原因不明の通信ケーブルの切断事故が起きたことが書かれていた。衛星通信は軍の規制で利用できない。ときおり島に着陸していた米軍の飛行機も、なぜか無人機による物資や書類のやりとりのみとなり、彼女は断絶された環境におかれた。
イルカは普通のイルカではなく、軍事的な利用を目的として、実験によって作り出された人間とイルカのキメラであることが明かされる。彼女はただの動物であるときには心を寄せてたよりにしていたイルカが人造のキメラだと知り、生理的な嫌悪を感じるようになる。しかし外部との連絡がとれない孤島ではこのイルカと協力して生きていかざるをえない状況であった。
彼は手紙を読み進み、新しめの手紙にたどりつく。イルカは彼女に対して動物が人間に懐くというだけではない、恋愛感情のようなものを抱き始めていた。そのことに彼女は気づき動揺したことが記されていた。彼女は米軍に対しても兵士に友情を感じて協力的に働いてきたものの、キメラを作りだして使っていることや、非常事態にも関わらず救助や復旧活動がないことへの怒りが溜まっていた。
一番新しい手紙からは、とうとう彼女もイルカのキメラに対して恋愛感情を抱きはじめたことが記されている。彼は彼女への連絡がつかないので、その後がわからないということに恐怖を覚える。
政府機関や報道関係者への連絡も考えるが、誰にも信じてはもらえない、むしろ精神がどうかしていると思われるだけだと思う。米軍も彼が何もできないことを知って手紙をよこしたのだろうと悟る。
彼は彼女を助けることができない無力感、軍事的なキメラが存在することを知った故の抱えきれない精神的な苦しさに耐えられなくなり、手紙の束に火を放つ。
文字数:1200
内容に関するアピール
報道で見た日米の防衛的同盟の映像が、ひとつのイメージになっています。
また、再生医療や臓器移植の分野において、ヒトの細胞を動物の胚(受精卵が細胞分裂を繰り返して多細胞になり、その後の発生過程の初期段階にある状態)に移植する異種間キメラの研究が進んでいることをアイデアに、実際に軍事目的とした異種間キメラが生まれたとしたら人間はどう感じるかをテーマに考えました。
タイトルの『19th Parallel North』は、北太平洋にある米国領のウェーク島を意味しています。ベトナム戦争や冷戦時代は軍事的拠点でしたが、現在は撤収されているとのこと。秘密裏に軍事拠点として復活し、異種間キメラの実証実験が行われていたらという想定です。
そして、おとぎ話の「人魚姫」は女性ですが、ジェンダーを逆にして人間を女性とし、人魚姫的な存在であるイルカのキメラを男性として描いてみようと考えました。
文字数:384




