フトルミューティレーション

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梗 概

フトルミューティレーション

カリフォルニアの大学院に通うシリルは、将来を嘱望されている若手ボディービルダーという顔も持っていた。しかし、後輩のローガンという男が現れてから栄光に陰りが出る。

彼に負けるのが納得いかないシリルは、敵情視察のさなか、ローガンがボディービルダーらしからぬ、ハンバーガーにかぶりついているところを目撃してしまう。ローガンが明かすところによると、彼は民間の宇宙開発機構が発見した未確認物質の治験者に選ばれていたのだった。彼が胃から吐き出した野球ボール大の球体こそ、アゴラス真珠と呼ばれる異星の物体である。アゴラス真珠は長らく毒ガスの充満によって近付くことができなかった金星で見つかった組成不明の物体だったが、近くにある栄養素をそっくりそのまま内側に取り込むという超常的な性質を持っている。宇宙開発機構は、体型維持を生業とする人々を治験者に選びその性質をテストしていた。

シリルは不公平さに激昂し、ローガンから真珠をいくつか分けてもらう。自分が愛したボディビルを冒涜していることに罪悪感を覚えつつも、暴食行為は「免罪される」という前提で抗うにはあまりにも甘美な誘惑だった。

食べ放題の生活が定着した頃、シリルは真珠の栄養吸収が弱まっていることに気づく。慌てて彼がアゴラス真珠を吐き出すと、肥大化した真珠は一人でに動き、アルマジロのような甲皮生物となって地に足をつけた。アゴラス真珠は、金星の火山活動による硫酸ガス発生を生き延びるために、仮死状態になったアゴラス生命体の防御形態だったのである。

彼は恐怖し、ローガンに相談しようとして思いとどまる。アゴラス生命体が目覚めた原因は、莫大な栄養素を自分が与えたからに違いない。それならば何故、ローガンの真珠はいまだに小さいままなのか。シリルの期待に反してローガンは今なおカリフォルニア最強のボディビルダーとして君臨し続けた。彼はシリルと違い、真珠を使いながらも自分の欲求を飼い慣らせていたのである。彼の強さの本質を見た気がしてシリルは打ちのめされたが、今更もとの生活に戻ることはできず、アルマジロを匿う生活を選んだ。

しかし後日、ローガンから「アゴラス真珠を回収する」との通告が入ってシリルは青ざめる。もともとこの計画は、栄養を蓄えた真珠を調理用に加工するところまでがセットだったのだ。アゴラス真珠の栄養素がどのような形で残存しているか解析し、その栄養素を食糧不足の人々に再分配をすることが実験の最終目的だった。

彼は自分が育ててしまったアゴラス生命体を見上げた。寡黙で緩慢に動くアルマジロは雑食で、シリルを肉体で凌駕できるまで成長していた。プライドが邪魔して相談できなかった男は逃げようとしたが、アゴラス生命体はシリルを殺害しその肉を食べた。

成人男性のカロリーを覚えたアゴラス生命体は巨体で暴れてシリルのアパートを飛び出す。仲間の真珠を探し、栄養を与えて孵化させるために。

文字数:1199

内容に関するアピール

太ることが怖いと思っています。課題に対して力不足の印象があるかもしれませんが、なぜ怖いかを考えるとますます怖くなってきました。

太ることそのものが怖いのではなく「太りたくないのに太る」のが怖いのであり、それはつまり自分自身が「なりたくない自分に進んで変貌してしまう」のが怖いのです。肥満を防ぐ方法は本来とても簡単で衆知のものであるはずなのに、他ならぬ自分の怠惰や決意の弱さによって増量は続いていく。太ることは最も身近な裏切りの現れなのかもしれません。

世に怪しげなダイエット食品や美容医療が尽きることはないようです。飢餓がなくならない国がある一方で何万人もの人々が手段を選ばず減量しようとする様と、それでも止まらない間食を見ていると、肥満という現象自体が人生を蝕む恐ろしいものに見えてきます。

ではもし食べても太らない道具があったら? そういうスタート地点から節制と宇宙人の話を考えました。

文字数:391

課題提出者一覧