ハロー・イッツ・ミー

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梗 概

ハロー・イッツ・ミー

舞台は深宇宙を移動中の移民船団、どの船も危険なほど古び、移住可能な惑星を必死に探している。

ある日テレポート可能な距離に人が住めそうな惑星が現れた。奇妙な形の木々に覆われていたが森があり大気には窒素と酸素も。テラフォーミング技術者のテッドは、恋人ナオリの反対を押し切り探索テレポートを決行。

トッドの分子情報が惑星で再構成されようとする瞬間、雷が落ちるように大気が瞬き、テッドの意識は惑星の森に囚われ、残りの分子情報はもとの移民船のテレポートポッドまで弾き飛ばされる。そこで再構築されたテッドからは感情が消えていた(※記憶はある)

ナオリは戻ったテッドに違和感を抱きテレポート事故について調べ始める。

かたや惑星に捉えられたテッドの意識は暗闇の中、出口を探しナオリの夢に何度も入り込む。ナオリの夢につながる瞬間だけが、惑星に宿る暗い思念の闇からテッドを救っていた。

ナオリは徐々にテッドの窮状を理解。だが再構成された肉体、新たなテッドにも感情が生まれ始め、ナオリに好意を寄せるようになる。

ナオリは惑星に捕まったテッドの意識にだけ本物を感じ葛藤する。

量子もつれと脳の関わりが明らかになるにつれ、親しい者たちの脳波が何光年離れても干渉し合うことがわかり、それが惑星間通信に利用され始めていた。ナオリはそこに希望を抱き、ヒューマノイドに故人の感情を移植できると宣伝する葬儀社を訪れる。ナオリは、夢の中のテッドに彼の意識を採取しヒューマノイド移植したいと伝えるが、それでテッドが救われる訳ではない。

意識だけのテッドは絶望しつつあり、自分をコピーする許可を与える代わりに、この惑星の森ごと分解し自分を解放してほしいとナオリに頼む。

ナオリはテッドの意識を宿らせたヒューマノイドを手に入れ起動、一日を共に過ごした後すべてをアンインストールし姿を消した。

***

惑星の森はナオリに委託された葬儀社の量子操作で分解。惑星から解き放たれたテッドの意識は時空を自在に鳥のように飛びまわり、懐かしき移民船に別れを告げる。

彼は故郷、太陽系の辺境ヘリオポーズに引き寄せられていく。

荷電粒子の波が絡まり合い無数の磁気の泡が広大な空間を覆い、太陽からの波に揺れる場所でテッドはナオリの声を聴いて驚く。

彼女はヒューマノイドのテッドを殺したあと他の移民船へテレポート。その瞬間、彼女の意識は時空の狭間に放り出されてしまう。そして多くを理解したナオリは時空の狭間から未来を見通し、ここでテッドの訪れを待っていたのだ。

どんなテレポートでもオリジナルの意識は分離し時空をさまよう。テレポートは個人の死であり、もどきの誕生でしかないことを人々はテレポート後に知るのだ。

2人の意識は寄り添いながら、荷電粒子の泡の海にゆられていた。存在が消えつつあるのを感じたが太陽からの波は心地よく彼らは深い安らぎの中にあった。

文字数:1177

内容に関するアピール

タイトルはトッド・ラングレンの名曲「Hello It’s Me」から取りました。

すれ違う男女。でも男は遠くから、やあ僕はここにいるよとつぶやく、これはそんな歌がよく似合うお話です。

スタートレックで見慣れ、蝿男で危険を学んだ「転送」の世界ですが、ブライアン・グリーンの量子解説番組をみていたら…「出発地点で分子まで分解。それはそこに置き去りにし、再構築に必要な情報だけを転送、到着地点に溜まっている(別の人が置いて行った??)分子を使って復活する」シーンにびっくり。

転送前後の同一性について、長年もやもやしていたところもあり、ソラリスのように怪しい惑星を絡めながら、テレポート毎に何か大切なものが失われ、もどきが生まれる世界の恋人たちについて描いてみました。

抜け殻のような記憶と肉体を抱えたナオリとテッドがどうなるのか、続編も書く予定です。

文字数:365

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