梗 概
ユタカの恐怖克服180日間
「殺されたくなかったら、よお!」
ユタカは、生まれてこのかた生粋のビビリだ。物音ひとつで肩をすくめ、他人の視線を過剰に気にしていた。だからこそ、一人暮らしを始めたこの部屋は、せめて安全な巣であるはずだった。
その期待は、この男たち3人組に見事に裏切られる。
土足で踏み入ってきた目出し帽の彼らは、バットを振り回し、本棚をなぎ倒し、カーテンを引き裂き、椅子を割った。ベッドの隅で小さく縮こまるユタカに向かって、暴力と騒音を惜しみなく浴びせる。
一人のスマホが鳴る。「よしいけるぞ」
もう一人が拡声器のような装置を構える。火花が散り、機械が唸り、数値が表示される。
「100ヘルツか」「なかなかだな」
彼らはそう言い残し、帰っていった。
残されたユタカは、倒れた電子レンジを見つめたまま、声も出せずに座り尽くす。
「今日もダメだった……」
薄汚れたミニバンの中で、三人組は目出し帽を脱ぎ、反省会を始める。
「水槽を割ったの、やりすぎだったか?」
「恐怖より憎悪を引き出したかもな」
「まあ、それでも十分稼げたけど」
彼らは恐怖喝団。人が恐怖を感じた瞬間に発する脳内電気信号を回収し、地下組織へと売りさばく。死を記憶したパルスは、逆位相に変換すれば、生への覚醒でもあり、アドレナリンやエンドルフィンを精製する。恐怖は商品であった。彼らが使っていた拡声器のような機械は〈ファーメント〉と呼ばれ、脳波の保存を可能とした機械である。
ユタカは彼らのターゲットの間でも、超優良のカモ。人の何倍も恐怖が引き出せるのに、なぜか、警察に通報する気配がない。だから、彼らも足繁く襲っていた。
もちろん警察に通報すればいいが、ユタカには、それができなかった。
警察すらもこわかった。警察にいえば、もっと酷いこと、つまり殺されるという強迫観念に刈られていた。
だから、ユタカは思う――このままでは、何も変わらない。自分自身が、この3人組にもビビらない男になれば、彼らも来なくなるし、自分もこれからの人生を変えられる。
やがてある夜、三人組は異変に気づく。装置が鳴らない。数値が出ない。
それどころか、無言で立つユタカの視線に、理由のない寒気を覚える。
「……なんだ、こいつ」初めて、彼らが後ずさった。
手から滑り落ちたファーメントを男の頭に合わせてスイッチを押す。
「100ヘルツ、なかなかですね」
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内容に関するアピール
一番怖いものは、いつまで変われない自分です。その変われなさ具合を、このファーメントはハッキリと数値化します。属人的な要素はある意味で、なあなあに評価されがちですが、でもここでは残酷な数字が目の前にハッキリと出てきます。
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