虚無警告(Signal Margin)

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梗 概

虚無警告(Signal Margin)

核融合発電と暗号型給電の導入、電力特区と鳥獣管理区の設置、害獣駆除に関する災害出動の適用範囲拡大。安定した地盤を獲得した地方都市が目まぐるしい成長を見せる日本。とある地域の山間部にて、ボーイスカウトの少年が行方不明となった。少年の親であり技術空曹でもある小田カイは、ドローンによる捜索任務に志願するが、正体不明の敵性ドローンからの襲撃を受ける。

任務に失敗したカイは、失意のもと航空自衛官としての休職を申請。さらにパートナーから離婚を切り出されたことで、地元に帰省する。猟友会に所属する友人マシオとの飲みの席で、いまだ手薄と言われる管理区脱走獣駆除の非常勤に誘われる。商工会議所が保有する巨大工場についていくと、マシオから2台のドローン、兄のウミと弟のヤミを託される。ウミは数か月前、山間部にて墜落していたところを発見され、拾われたものらしいが、その際に「兄さん」とヤミが話したことから、地元首長との交渉の末、備品登録にこぎつけたという。2台と1人体制による駆除システムのデモ準備と、そのオペレーターとしての誘いだった。ヒトドローン間、ドローンドローン間のインターフェースを設計し、カイは半制御型の狩猟体系を確立する。脱走するシカに際して、弟ヤミが光給電暗号中継と三者相互伝達を、そして兄ウミが音触覚変換センサーと自律判断機能、驚異的な飛行性能をもってして華々しい初陣を飾る。

数ヶ月後、イノシシ追跡の折、兄が旋回行動を数秒ほど繰り返しているとヤミから報告を受ける。かろうじて無力化に漕ぎつけた後、ウミの精密検査を行ったところ、過去の映像記録を発見する。そこに映っていたのは、息子の姿だった。ウミへの不信が拭えない夜、猟師交流会の席で、ベテランからある経験談を聞かされる。甲斐犬と狩猟をしていたとき、似たような旋回歩行をとったという。実は子連れのクマにストーキングされており、吠えるという刺激を避け、ベテランをできるだけ安全に帰還させていたという。この話から、ウミの奇妙な行動に対してカイはある仮説を立てる。

翌日の哨戒中、兄に旋回行動をとらせるようヤミに伝える。リアルタイム履歴を解読中、声を上げたのはカイではなくヤミだった。「クマは、新しい白いハタケに降りていくみたいだよ」。近くの航空基地にF-35Bが帰還するタイミングで、かつてカイを襲ったドローンが襲撃を試みるというのだった。姿を現した敵性ドローンとのドッグファイトの末、自傷の突撃行為をウミは選び、撃墜に成功する。

回収したドローンを解析したところ、構成部品のメーカー型番から、それが0.5世代前の日本製で、ウミと同系であることを知る。さらにログを辿ると、息子の映像を送信した履歴と、次の目標地を核融合発電設備と定める計画映像を確認する。決意を新たにしたカイは、兄弟ドローンとともに、技術空曹として復職し、発電設備防衛に赴くのであった。

文字数:1195

内容に関するアピール

50年も経てば、エネルギー問題や国土計画などにも多少の進展はあるだろうと思い、地方都市が盛り返している世界観で描きました。どちらかといえばユートピアのつもりですが、それでも人の不幸というものはあります。現代より治安が良いのかについては、まだよくわからないです。あと、SFなのでドローンでも話したり考えたりできるようにしました。家族がいたりもします。ただし、よく話すけどあんまり考えてない弟と、わりと考えているけど全然しゃべらない兄という、やや頼りない組み合わせではありますが。このくらい余裕やお金がある状況でこそ、ソリューションは生まれるものなのかなと。昔の日本では、猟師1人と猟犬1匹で、山間部を守っていたそうですが、未来では猟師さんだって今より働くことが辛くなければと良いなと思います。実際のところ、泥臭い仕事にも情けをかけてくれる人が未来にはどのくらいいるのかわからないですけど。

文字数:393

課題提出者一覧