いて座の彼女

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梗 概

いて座の彼女

地球滅亡まで、あと三日。
視覚の隅では、巨大隕石の軌道が点滅していた。

今や地球は、“運の悪い人間”のたまり場だ。火星には科学者や富裕層が優先移民し、地球は抽選に外れた人々の居住圏になりつつある。様々な研究拠点も火星に集約され、天才は宇宙へ、不運は地表に置き去りに。そして主人公は後者、生まれつきの“不運体質”。事故には遭う、抽選は外れる。
地球滅亡まで三日という最悪の事態を前にすら、「これ自分のせいでは?」と思ってしまう。

幼馴染のユリは、そんな主人公とは正反対の“天才”だった。幼少期から量子力学の問題を先生より先に解き、ノートにはよくわからない数式を落書きしていた。
しかしなぜか非科学的な星座占いに固執し、理不尽なくらい本気で憎んでいた。主人公のさそり座とユリのいて座は相性最悪。「生まれ日で人生決めるの腹立つ!」と。なら信じなければいいのに。

「ねえ、もしタイムマシンができたらさ」

「私、自分の星座、変えに行く」

「は?」

「だって、いつ見ても“相性最悪”って出るんだもん。生まれた日が悪かったって、一生言われ続けるの理不尽すぎない?」

「星座を変えるたって、どうやって生まれる時間をズラすんだよ」

「未来の技術とこの私さえいればなんとでもなるでしょ」

天才だったゆりは、当然火星への優先移民組。なんなら時間に関する技術開発ということで、この会話をした翌年には火星に移住していった。
ユリとはそれっきりで、別れ際にユリから渡された無骨な金属ペンダントと星座アプリだけがユリとのつながりだ。

終末の空を見上げ、そんなふうにユリとの想い出にい浸っていた主人公はなんとなく“あの星座相性アプリ”を起動した。そして目を疑う。

“出生区分:いて座”

いや、俺はずっと“さそり座”だろ。
だが表示にはこうある。

“アンタレスは20年前の爆散記録に基づき星図が再構成されています。
現行モデルではあなたは〈いて座〉です。”
俺の記憶がおかしいのか?

鳴り響く、緊急ニュース──「今まさに、隕石に未知の物体群が衝突し、進路が逸れています」

二十年前に“さそり座の主星アンタレスが爆散”し、その破片が三時間後に迫る隕石と“最適角度で交差する軌道”に配置されていることが判明する。

その瞬間悟る。
ユリは、“生まれ日”を変えたのではない。
“星座そのもの(アンタレス)”を宇宙から削除したのだ。
さそり座の主星を破壊し、星図ごと書き換え、地球は救われた。
子どもの頃の理不尽に対する、そして不運に囚われた主人公を救い出すための、誰も想像しない方法だった。

星座アプリの画面が切り替わる。
〈あなた:いて座〉 × 〈ユリ:いて座〉
相性:最高(A++)

──二十年前、地球軌道上、ユリは呟く。
「覚えていて。……相性、ちゃんと良くしておいたから」
過去のユリに渡した、過去改変の記憶保持効果を及ぼすペンダントを想いながら。
閃光。アンタレスが砕け、星図が書き換わる。

文字数:1193

内容に関するアピール

今回「梗概」というテーマで考えたのは、これからその小説で書かれるであろう「面白さ」をいかにこの短いテキスト内で伝えるか、と捉えました。

作品で感じさせたい面白さは

個人的で客観的にみると小さな動機や行動(星座占いの相性が最悪だから変えよう)

異常にスケールが大きいこと(世界崩壊を食い止める & 星座そのものを破壊する)

など両極端や相反するものがつながる?同時に描かれる、こと

です。

野崎まどさんの「小説」や推薦図書のひとつで読んだ新井素子さんの「ひとめあなたに…」が自分の中で面白く、分解すると上記の要素があるような気がしたので(もちろん面白さの要素はそれだけではないとは思いますが)それを梗概にアウトプットしてみたく、という意図で今回の内容にしました。

「星座占い」を取り上げた理由としては、ChatGPTを多くの人が利用するようになってきて、会社でも巷でも流行ったひとつがChatGPTをつかって「占い」をすることで、ここまでテクノロジーが発展しても、昔も今も占いをしてるっていうことがふと面白く感じ、そこから「女の子が好きな男の子との相性を最高にするためにタイムトラベルで星座を変える」物語を思いつき、そのワンアイデアを広げていった形です。

(世の中的にも家庭用ロボットが生産体制に入り、ドラえもんのような世界が実現しつつあるのに、僕の故郷秋田では熊が大暴れしてる。そんな、なにか両極端のようなものが同時に起こってるような、ギャップに個人的なひっかかりがありました。)

そういうギャップのところを強調したかったので、梗概でうまく書ききれなかったのですが、星座の改変に主人公(というか読者が)気づけないと本作の面白さがでないと思ったので、それを読者に伝わるため手段としての記憶保持ペンダントを導入しました。
実作では、ペンダントの必然性を出すために、もうちょっと恋愛要素というか、好意があっただっただろうけどお互い明確には言葉にしてない関係というのを強調し、あえて記憶を残すためのペンダントを渡し、星座改変を認知させたことが、彼女なりの告白、というのを入れればと思ってます。

物語的な面白さを出していくため、幼少期の会話内容では「星座を変える物語」ということは予期させつつ変える手段として「生まれた時間」を変えるのでは?というミスリードをさせる狙いがあり、それが最終的に「星座そのものを吹き飛ばす」という方法であったという驚きを持ってもらいたいと思ってます。しかもおまけで地球を救うってもしまう、という。

ご都合主義感はあるなと思いつつ、救うことを主軸におくのではなく、あくまで「星座を変えてまで彼との相性を最高にしたかった」というところに着地させることで、うまくカジュアルめ?におさまればいいなと思ってます。文体やトーンはライトノベル的なものをイメージしてます。

文字数:1174

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