梗 概
仮面の下の貴女に捧ぐ
1950年代、豪雪の降る土地の小屋で女性が目を覚ます。以前の記憶がなく、鏡を見ると醜い肉腫が顔の半分を覆っていることに気付く。
小屋の住人・前川が現れ、彼女に経緯を話す。前川は寄生虫研究者であり、地域で確認される条虫(サナダムシ)とその寄生虫症について研究しているという。
突然変異で生まれたと思わしきこの条虫は、宿主の頭部を膨張させる性質があった。到達した頭部で自らが核となって新しい脳を構築し、肥大化。頭部の形状を変え、最終的に顔の半分を覆う肉腫を発生させる。肉体の制御権を奪い、元々の脳と神経を連結させて宿主が生存できるよう動く。
「仮面頭症」と名付けたこの病に、共同研究者の女性・辻田ミツが冒された。元々の顔の眼球が動いておらず、現在身体を動かしているのは増えた脳による人格だと前川は推測。
状況を認識し、彼女は自身を新しい辻田ミツとして受け入れる。人間への寄生例、そして意思疎通できる寄生者として、ミツは前川との生活を送る。前川は優しくミツを扱い、人として惹かれるところがあった。部屋で日誌も見つかり、以前のミツの愉快な一面も知っていく。暮らしを楽しく思う一方、制御できない強烈な憎悪を、前川やこの環境に感じているのをミツは自覚する。
憎悪は日に日に強まっていく。これは寄生者としての感情なのだろうか。前川に吐露しようか迷い、彼が日中過ごしている研究室へ。普段は入るなと言われているそこで目にしたノートには肉腫のないミツの写真があり、意図的にミツを条虫に寄生させた主旨の文章が続く。
前川はミツを欲したが拒絶され、思いを拗らせ実験体として常時観察できる状態に置くという選択を取った。肥大化した脳が新しい人格を持つことは予想外で、これ幸いと利用したらしい。今まで感じていた憎悪は、宿主のミツが抱いていたものと知る。
真実を知ったミツの背後に前川が立つ。前川は素直に自分の行為を認めるが、何か状況を変えられるのか?と問う。外は豪雪で、集落に辿り着けても肉腫の顔では受け入れられるはずがない。前川の指摘通り、飼われるしかないとミツは悟る。
しかし、納得できない。研究室の工具を握ってミツは前川に殴りかかり、隙を突いて小屋を脱出。雪中を走りながら、自分がなぜ不可解な行動を取っているか考える。
寄生虫は宿主なしでは生きられない。自分の元になった条虫もそうだ。脳を連結させ、宿主が生存できるよう動く。寄生者である自分は繋がれた脳を通じて感じ取った宿主に、本来の姿を取り戻してほしいのだろう。飼われず生きられる、以前の姿に。
結論を下したミツは洞穴に入ると、顔の肉腫に工具を突き立てる。脱出はした、あとは自分が消えればいい。肉腫が抉られるごとに、寄生者の意識は薄れていく。
集落の村人に介抱され、顔を取り戻した辻田ミツが目を覚ます。起き抜けに、他に人はいないかと彼女は尋ねる。
誰かがいた気がする。私を守ってくれた誰かが、と。
文字数:1200
内容に関するアピール
転換点を意識して、最終的に設定を回収できるような構成を目指しました。
閉鎖空間にいる人物が豹変する、という状況が好きなので、雪山モノと掛け合わせる形で寄生虫の要素を入れています。
寄生虫を題材にした物語は既にかなりありますが、寄生者の視点で書かれたものは少ないはずです。そのため「脳を発生させる」という設定から自我を持つ寄生者を作り、そこから寄生者と宿主の関係性を描こうと思います。
脳が繋がっているのに剥いで大丈夫か、という疑問があるかと思いますが、実作では「仮面頭症」についての記述を増やし、描写を盛り込むことでこの疑問は回避したいです。具体的には、「主要な脳の発生部分が顔の皮膚なので、顔を剥がすだけなら宿主の命に関係ない」など。この辺りの設定も上手く使って、前川への不信感を強めていくのも手だと考えています。
文字数:355




