梗 概
オートマタ・オートクチュール
直近20年の技術革命により、オートマタ(機械人形)と呼ばれる様々な形状の機械が家庭や街中にも登場した未来。新しい隣人であるオートマタに人々は服を着せ始める。習慣は一般化し、オートマタ用の衣服までもが販売されるようになった。
そんな中で開催されるパリ・ファッションウィーク2078。老舗ブランドの統括デザイナー・バルザックが病で倒れ、意識を失う。迫るコレクション(展示会)に向けて担当を引き継いだ気鋭の若手・レナルドは彼の構想を見て驚く。
モデルの半数以上がオートマタで構成された「技術共生時代」がテーマのオートクチュールコレクション。オートマタ企業との交渉は秘密裏に行われ、ブランドの名誉のため取り下げられない。デザイン案はほとんどなく、乱雑なメモとモデルのリスト、『服を書き換えろ』という書き残しを頼りにレナルドは制作を始める。
リストにあったオートマタはどれも公式販売された衣服がなく、大半は人型ですらない。採寸して進めていくが、どうしても難航する個体がいた。
交通誘導人形・ジュテ。かつて凱旋門前にいて、廃棄時にバルザックが買い取った個体。信号に似た頭、筒状の胴と旗や誘導灯を持つための8本腕、それらを支える太い4本脚。試着を繰り返すが、ジュテに合う服の構造がない。その度に発話機能で「私も服が着られて嬉しい」とジュテは話し、健気さと罪悪感をレナルドは覚える。
モデルから外すべきだ。買い取られたジュテなら影響もない。決意して帰路についたレナルドは夜の凱旋門前、交通量の激しい通りでふと気づく。
踊るように誘導灯を振って車を捌く交通誘導人形たち。光の軌道と信号の点滅が美しいのに、誰も見ていない。誰も機能しか見ていない。一方で、通りを歩く人型や動物型のオートマタは自身に似合う服を着ていた。
親しみを込めて服を着せるオートマタを、人は選んでいる。あれほどの光景を生み出すのに。それが惜しいとバルザックは感じた。思えばモデルのオートマタは産業に携わる個体が多く、注目されてこなかった個体ばかりだった。
この現状はデザイナーの自分にしか変えられない。衝動に突き動かされ、レナルドはジュテの服のデザインと演出プランの変更に取りかかる。ジュテに合う服がないなら、服の概念を書き換えてでもジュテを飾ってやればいい。
そしてコレクション当日。観客が円形に会場を囲む中で舞台は暗転。暗闇で振られる誘導灯と信号の光、散らばって立つモデルたちの照明が舞台を照らす。
ジュテは煌びやかな刺繍の施された、輪状の布を纏っていた。人間なら落としてしまう中央に大きな穴が開いた服を着て、規則的に誘導灯を振る。モデルが歩き出し、ショーは始まる。信号が赤に変われば停止、緑で動く。光を受けて手縫いの刺繍が輝く舞台で、ジュテは誰からも見られていた。
終演後、ジュテの頭の信号が点滅する。「上手くできてた?」という問いに、レナルドは頷いて拍手を送った。
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内容に関するアピール
「未来のSF」というお題に対し、真正面からロボットSFで挑戦しました。なかなかSFで触れられない服も題材にして、それが最も注目を浴びる瞬間を考えました。
そう、これは《パリコレSF》です。
おそらくロボットの開発者はロボットに服を着せることを想定していません。しかしロボットが普及すれば人間は犬や猫やぬいぐるみのように、自然とロボットに服を着せるはず。そのとき服を着せる機械と着せない機械を分けるものは何か。今回は「機能だけが見られる機械」という結論を出しました。
ちなみに服飾業界ではプレタポルテ(既製服)の対としてオートクチュール(一点物)があるそうです。独創性が強い「ロボットのための服」が生み出されるのもきっとこちらだと思います。オートクチュールでは丹念に刺繍が縫われたドレスが披露されることもあるようなので、コレクション全体の様子も含め、仕上げる際は美麗な描写をしていきたいです。
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