梗 概
ドラッグプログラム
主人公は女性精神科医でシングルマザー。
科学と医療が現在よりも著しく発展した未来。
新生児の頭蓋骨は脳の成長を助けるために数枚の骨が隙間を開けており、やわらかい部分(大泉門、小泉門)があるが、この世界では生後半年の健康診断で大泉門から簡易な外科手術で前頭葉にニューロデバイスを埋め込むことが常識となっている。
人々は前頭葉のニューロデバイスから外部デバイスを操作するだけでなく、ニューロデバイスでプログラムを実行し、夢を見るようにバーチャルリアリティーを体験したり、感情を操作することも可能である。
強く感情を制御するプログラムを作ることは制限されており、一般に流通しているプログラムはフィーリングプログラムといって弱く気分に影響する程度のものであるが、医療現場では精神病患者に対する治療として作用が強い薬事プログラムを医師が処方している。
ある日、主人公は不安障害で通院している22歳の女性患者が明らかにいつもと違い、明るく、不安を全く感じていない様子を怪訝に思う。
患者は『エンジェル』というフィーリングプログラムを使用していると言うが、利きが強すぎると感じ、診察後、厚生労働省に報告をしてから帰路につく。
主人公が帰宅すると、高校生の息子は既に食事を済ませ自室にこもっている。
主人公はさみしく思うが、息子も高校生で母親と喜んで会話をするような年齢でもないだろうと自分に言い聞かせる。
また別の日の診察でも、『エンジェル』という怪しいフィーリングプログラムを使っている若い患者を診察する。
ある夜、玄関で物音がして主人公が目を覚ますと、家に息子の姿がない。
主人公が慌てて外に出て追いかけると、息子はまるで何かに操られているように歩いていき、町はずれの元研究所だった廃墟へ入っていく。
主人公は警察に連絡をした後、廃墟へ侵入する。
薄く明かりが漏れている部屋に入り、主人公が見たものは、多数の若者が頭に取り付けられた装置からコードで中央にある大きなコンピュータにつながれ、横たわっている光景だった。
部屋にいる若い男性に、なにをしているのかと問うと、男性は
「みんな考えたくないんだろ?僕が作った『エンジェル』でみんなの不安を消して気持ちよくさせてあげたのだから、僕はみんなが使わない脳を僕が作った新型の人工知能の計算リソースとして借りているんだ。Win-Winだろう?」
と言う。
警察が到着し、若い男性は連行される。
意識のない若者たちは救急車で運ばれていった。
二か月後、回復した息子にどうして怪しいプログラムを使ったのかと聞くと、息子は
「お母さんのことは尊敬しているけど、自分はお母さんみたいにすごい人にはなれないから、進路や勉強のことがとてもプレッシャーだった。」
と言う。
『エンジェル』を作った若い男性の公判のニュースが流れる。
男性は
「僕はみんなにとっても、自分にとっても良いことをしているつもりだった。」
と述べている。
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内容に関するアピール
みなさんは脳にデバイスを埋め込んで自在にヒトの脳を操れるような未来は来ると思いますか?
私はそのような未来が来るのではないかと思っています。
現在は強力な磁気刺激で脳を刺激してうつ病の症状を和らげる治療が一部の患者さんに対して保険適用になっている程度。
磁気刺激で脳を刺激する治療は発達障害の方にも効果があるようですが、治療機器はスーパーカーと同じくらい高いそうです。
脳波から他人の感情を読み取る技術なんかも進んでいるそうですが、そういった技術が悪用されることを懸念し、先日のユネスコの総会ではそういった技術による不当な干渉からの保護についての倫理勧告が採択されたそうです。
『エンジェル』を作った若い男性の犯行動機を『人の脳を新型の人工知能の計算リソースとして使いたいため』としたのは、AI新しく何かをできるようになったと聞くたびに、人の脳ってコスパいいなと私が思っているからだと思います。
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