梗 概
肉とまつり
温暖化により地球上の耕作地の80%が失われた時代。
人類は発酵プロテインと光合成触媒技術を用いた「工場食」によって生き延びていた。
日本では核融合炉と豊富な水資源を利用した巨大な食料工場を建設し、食料の完全供給と海外輸出を実現している。
食肉文化は野蛮とされ、人々は生命を“殺す”ことから切り離された食生活を送っていた。
中学二年生の飯山海斗は、古い漫画を読みながら「牛の肉ってどんな味がするんだろう」と想像を巡らせる。
課外授業で食料工場を見学した彼は、科学的に完結した食の仕組みに圧倒されつつも、心のどこかに虚しさを覚える。
夜、動画サイトで「猟師が仕留めたイノシシを料理する映像」を見た海斗は、どうしても“昔の食事”を体験したくなり、母親に「月曜日には帰ります」と書き置きをして自転車で山へ向かう。
途中で転倒して怪我を負った海斗は、山間のコロニー〈サトヤマ〉に住む少女・菜々美に助けられる。
そこでは国の支援を受けながら、自給自足的な暮らしが続いていた。
ちょうどその日、罠にかかった鹿が運び込まれる。
海斗は命を奪う現場に戸惑いながらも、菜々美の「今晩はおまつりだよ!」という笑顔に引かれ、鹿の解体を手伝う。
夜、焚き火を囲みながら食べた鹿の肉は、今までにない生命のリアリティを彼の心に刻みつける。
翌朝、老人から「成人するまでは親元で生活しろ」と諭され、鹿の角笛を渡される。
サトヤマから都市コロニーへ戻った海斗は、母の叱責を受けながらも、いつもの食卓に“命の味”がしないことに気づく。
夜、海斗は布団の中で角笛を握りながら、焚き火の赤い炎とサトヤマの人々の笑い声を思い出していた。
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内容に関するアピール
今年の夏も非常に暑かったですね。
50年後の未来をテーマにということで、結構極端に書いてみたつもりですが、書いたり調べたりしていると未来予想なのか、SFなのか、よくわからなくなってきました。
気候変動と食を題材にしたのは、夏場に東京が暑すぎて北海道の物件をネットで見ていたのと、最近ハマっている野食ハンター茸本朗さんのYouTubeの動画のせいだと思います。
生まれて初めて肉を食べた海斗くんの食レポシーン、頑張ろうと思います。
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