Ryomaがゆきかう

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梗 概

Ryomaがゆきかう

 近江屋の二階。坂本竜馬は額を横殴りに斬られると、白い脳漿がこぼれ落ちた。
「脳をやられた。もういかん」
 中岡慎太郎にそう言い残し、竜馬の意識は途絶え死んだ、はずだった。
 しかし、気づけば、竜馬は赤ん坊として泣いていた。
 人生のやり直し、二度目の生である。幼少期、周囲からは「呆けている」と言われたが、それは前世の記憶が頭を去来し、今に集中できないためだった。竜馬はただ、あの運命の時を待った。
 十八歳で江戸へ出ると、そこには前世と同じく武市半平太がいた。歴史は繰り返すのか。
だが、嘉永六年六月、決定的な亀裂が入る。
 黒船が来たという報せに、竜馬はいかにも心得た風に、
「日本を奪りに来たのでしょう」
と言った。
しかし武市は、
「奴らの狙いは日本ではない。地球だ」

 浦賀沖の宙に浮いていたのは、巨大な黒い楕円形の宇宙船だった。乗員は紅毛人ではなく、鏡のような皮膚を持つ銀肌人。彼らは「ソナタトオチカヅキニナリトウゴザイマスル」という機械音を発する。幕府はなす術なく「日銀和親条約」を締結してしまった。
 攘夷の機運は高まるが、相手の文明力は計り知れない。流石に刀では勝てないだろうと、竜馬は冷静だった。
 竜馬は神戸に操練所を創設、まずは広く同志を募った。すると、異常事態が起きる。
 集まった百名を超える志士たちは、皆一様に背丈五尺七寸、羽織には桔梗の紋。顔つきこそ微妙に違うが、全員が竜馬だったのだ。
 その中の一人が言う。
「わしが神通力でおまんらを呼び寄せたのじゃ」
 操練所は混沌と化す。「自由は鮮血を以て購うべし」と叫ぶ竜馬、「討幕など内ゲバだ」と嘆く竜馬、ビジネス論を説く竜馬。あらゆる竜馬たちが、宇宙船を巡って激論を交わす。
「要は日本を、いや地球を洗濯すればええんじゃろ?」
米中の仲を取り持つなどの案は出たが、結局は一つの結論に至る。
「黒船に乗って、宇宙へ行こう」
竜馬は無類の船好きだったのだ。そして、旅が好きだった。

 鍵を握るのは、英吉利人グラバーだと踏んだ竜馬は、彼の邸宅へ向かう。
 なんと、グラバーは銀肌人だった。自らの皮膚を剥ぎ、銀色の正体を晒したのだ。

「信じられないでしょうが、あなたがたは作家が描いた物語の住人なのです」

「わしが誰であるかはどうでも良い。宇宙に行きたい」

銀肌人は映し鏡のように、竜馬の願いを映し返した。

「宇宙へ行きたければ、この世界を動かしている『神』を説得する他ないでしょう」

竜馬は京へ、孝明天皇の元へ走った。彼は神と下界を結ぶ存在だと、グラバーが教えてくれたのだ。

「神々の世界に連れて行ってくれ。そうしたら銀肌人を地球から宇宙に送り届ける」

御簾の奥から声が響く。

「我らの願いはこの難局を打破すること。それ答えだというなら、その道を開こう」

かくして、電子の海で生きていた竜馬らは、実体化を果たし、現代の黒船へと乗り込む。竜馬の大群は宇宙へと飛び立っていくのであった。

文字数:1196

内容に関するアピール

近い未来、宇宙船が地球にやってきたら、日本人は坂本竜馬に助けを乞う、かもしれません。
宇宙船来航は、幕末における黒船以来の衝撃です。世界で共に難局を乗り越えようとするも、中国とアメリカは協調せず、日本は困り果てます。そんな苦境に立ち上がるのが、プロジェクトRyomaです。

竜馬は100を超える小説や映画に登場します。明治期には自由民権運動家として、70年代には”学生運動活動家”、最近はプロジェクトマネージャーとして描かれています。竜馬は、その時々の問題を解決する人として登場するのです。

遠い未来の日本人は、数多作品のAI竜馬を作り、宇宙船来航を体験させ、それぞれの竜馬と協議させました。最終的に”船中八策”を考えてくれることを期待したのです。

神通力を使うのは半村良の「産霊山秘録」に出てくる竜馬。本作の主人公は、最も影響力があるということで「竜馬がゆく」の竜馬が選ばれました。

 

文字数:388

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