梗 概
壁を抜ける
戦争に敗北し、大国に分割占領された近未来の日本。本州の太平洋沿岸はアメリカに統治され、仙台は、東北新幹線の高架を改築した「壁」により東西に分断された。壁の東側はアメリカ合衆国日本連邦自治区となり、西側は日本海側を占領する中国との非武装地帯に設定され荒野と化していた。
だが壁の東側の住民にある噂が広がっていた――壁の西側は荒野でなく、死んだ人間が暮らす街だというのだ。
冬の仙台は死の灰が混じる雪が降りしきり、空は常に鈍色に染まっている。
噂を信じ、故人に会うため壁を越そうとする住人を、警備兵がM4カービンで射殺する。
壁の近くに建つ公共団地で、元少年兵の啓嗣は、戦友の輪廻とデバイス越しに会話する。仮想空間の戦場で戦い負傷した二人はトラウマを負い、重症の輪廻は仮想空間に精神を囚われ、自分のいる世界は現実で啓嗣のいる世界こそが仮想空間だと主張する。
輪廻との通話が終わり、啓嗣は、遊びにやってきた妹の久遠と談笑する。ふと、啓嗣はデバイスのカメラを壁に向けズームさせると目を疑った。壁を、物理法則を無視して人間がすり抜けて現れたのだ。しかも現れたのはなぜか久遠で、姿は瞬時に壁の向こうへ消えた。
この出来事を皮切りに、壁を人がすり抜けたと証言が相次ぐが、政府は集団幻覚として処理する。
啓嗣はトラウマの治療を受け抑圧された記憶が蘇り、久遠が仙台の市街戦で死亡したことを思い出す。また啓嗣はハッカーである輪廻の助けを借り、壁の検問所の監視カメラを目にした。久遠が壁の西側に追放されたが、壁の向こうは荒野でなく虚無の闇が広がっていた。
真相を確かめるため啓嗣はふたたび久遠と会うが、その最中、世界がバグを起こしたように形を歪め、啓嗣の意識は消えた。
目を覚ました啓嗣は病室で拘束されていた。そこ現れた久遠の姿をした「なにか」は、この世界が実は軍事戦略シミュレーションであり、仙台も人々も、啓嗣もすべてデータに過ぎないと明かす。「なにか」は死んだ久遠の姿を借りた管理ボットだった。壁の向こうは死者のデータを格納する記憶領域であり、啓嗣はシミュレーションのバグとして削除対象とされた。
削除寸前、輪廻の介入で啓嗣は逃走。輪廻は自分が本当に現実世界の人間だと明かし、仕事の一環で啓嗣とともに戦場で戦ううち、情が湧いて現実世界に連れて行きたくなったと語る。
輪廻は壁の前に啓嗣を行かせると、ゲームの壁抜けバグを応用して啓嗣をすり抜けさせた。
意識が戻った啓嗣は病室で寝ていた。しかしそこもまた別のシミュレーション世界の仙台で、病院の職員や患者は病室の壁を平然とすり抜ける。
デバイス越しに、輪廻はこのシミュレーション世界が入れ子状の多層構造であり、現実へ行ける可能性は五分五分だと告げる。
啓嗣は呆然として病室の窓の外を見た。
元いた世界と同じく、仙台は雪が降りしきっていた。
文字数:1197
内容に関するアピール
いちばん怖いものは故郷・仙台です。第1回の梗概のアピール文にも書きましたが、変わろうとする人間はたとえ地元っ子でも故郷は愛してくれません。わたしは田舎を追い出された人間で、無慈悲な故郷が怖いとずっと思ってきましたし、おそらく死ぬまでそう思うでしょう。
仙台という街は創作の世界だとやたら世界の存亡に関わります。『ガメラ2 レギオン襲来』では宇宙怪獣レギオンの繁殖に巻きこまれ街が消滅。ニトロプラスのゲーム『スマガ』では空から悪魔が襲来してきますし、三島由紀夫さえも『美しい星』で人類を滅ぼそうとする宇宙人を仙台から登場させています。
自分も仙台を舞台にして世界について論じる、スケールの大きい話を書きたいと思い、今回の梗概を提出しました。
文字数:319




