竜星群の夜

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梗 概

竜星群の夜

 かつて、地球には人類が繁栄していた。人類は二足歩行によって知能を進化させ、この星の支配者として君臨し続けた。しかし2075年、人類は滅亡した。地球外生命体〈竜〉によって--。

 宇宙から飛来したその地球外生命体は、人類が夢想し続けてきた伝説の生き物「竜」に酷似していたため、発見当初からそのように呼称された。チタン合金のような鱗、鋭いかぎ爪、大きな翼。〈竜〉は頭部から噴射する高圧ガスの燃焼によって、宇宙空間を移動する。形や色、大きさは様々だが、どれも美しく、恐ろしい。彼らは突如として太陽系に現れ、集団で地球を襲った。〈竜〉には知性があった。彼らはテレパシーで意思疎通し、人間に交渉を求めた。無駄な戦いは避けたい、と彼らは通達した。抵抗せず地球を差し出してほしい、と。

 西洋伝承学者のドレーク・ロバーツは国連の〈竜〉解析チームに招待され、彼らの生態を解き明かすように命じられる。ドレークは元妻や息子との関係が破綻し、研究成果も注目されず、人生に倦んでいた。ドレークは調査を進めていくなかで、〈竜〉がかつて地球に棲息していたという事実に辿り着く。〈竜〉は渡り鳥のように宇宙を周回し、その都度適した環境に住みつく漂流民であった。彼らは水と炭素を必要とし、新しい星に移り住んではその星の資源を喰い尽くしていた。かつての恐竜の絶滅も〈竜〉の襲来に起因するものであった。〈竜〉は資源としての人類の数がピークに達する時期を見計らい、この星を再び刈り取りに来たのだ。

 歴史的経緯と必要性から移住根拠を示された人間に、もはやなす術はない。ドレークは無駄な抵抗は止めて〈竜〉に対して無条件降伏をするよう、国連に進言する。一部の国は忠告を聞かずに〈竜〉を攻撃するが、反撃にあって殲滅される。ドレークは恐怖心を抱きながらも高揚感を覚える。彼が追い求めていた竜のロマンがそこにはあった。ドレークは人間が滅びても構わないと考えている自分がいることに気づく。

 一方、ドレークの息子であり若きアクティビストであるランスは〈竜〉に対する徹底抗戦を世に訴えかけ、〈反乱軍〉を組成する。人類は〈反乱軍〉と〈竜〉に寝返った〈竜星軍〉に分かれ、争いを繰り広げる。〈竜〉の力を借りた〈竜星軍〉は戦況を優位に進めるが、〈反乱軍〉は古代から地殻で眠り続けていた〈古代竜〉を覚醒させ、味方につけることで、反撃に出る。〈古代竜〉はかつての大移住の際、置き去りにされた犯罪者・被差別者の〈竜〉であり、新世代の〈竜〉に憎悪を燃やしていた。

 戦局が混迷を極める中、ランスは〈竜〉の背に乗って父のドレークを討ちに来る。迎え撃つドレークは〈反乱軍〉から「人類の反逆者」と呼ばれるが、気にしていなかった。

 決闘の末、ドレークはランスに刺され、地上へと堕ちていく。見上げる恰好となったドレークが最後に見たのは、流星群のように満天に降り注ぐ、〈竜〉の増援だった。

文字数:1199

内容に関するアピール

 人類の覇権は、長い地球の歴史の中で見るとまだまだ短いです。50年後の2075年は、世界人口がピークを迎えると予測される頃。人類を敵とみなす地球外生命体にとっては脅威ですが、人類を資源と見なす地球外生命体がいれば、またとない好機となります。〈竜〉はまさにそのタイミングで地球を刈り取りに襲来します。主人公のドレークは人生に倦んだ中年の学者。子どもの頃から夢に見た想像上の生き物が目前に現れることで、種の繁栄と存続が自分にとって意味を持つのか、疑問を抱くようになります。一方、息子のランスは人類滅亡に抗うことが自分の使命だと信じて疑いません。ふたつの異なる思想は最後に決闘という形でぶつかり合います。

 「かつて、地球には人類が繁栄していた」― 物語は、老いた語り部の〈竜〉のモノローグから始まります。火炎と光線が行き交う、SFファンタジー・スペクタクルをご堪能ください。

文字数:384

課題提出者一覧