あなたのために血のジュレを

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梗 概

あなたのために血のジュレを

「吸血病」が蔓延し、人々が血液を飲まないと生きていけなくなった社会。大手製血メーカー〈サングイーニ〉の研究所に務める紅沢花は、〈疑似人血〉と呼ばれる人工血液の製造について研究していた。彼女が取り組んでいるのは、携帯型製血装置〈ミニコル〉の開発。水さえあれば疑似人血をどこでも簡単に作り出すことができる装置だ。疑似人血が不足している地域では、人血目当ての犯罪が問題化している。貧しい家庭で生まれ育った花は、あらゆる人に血が行き渡る世界を実現したいと考えていた。

花は会社同期で海外事業部の松代高志と付き合っている。二人はともに料理が趣味。休日には互いの家で洒落た人血料理を作り、夜になると愛を交わしながら互いの血を啜る。

ある晩、花は高志の社用スマホに届いたメッセージを見てしまう。メッセージでは、サングイーニが発展途上国の子どもたちの血を密かに輸入していることが示唆されていた。花は高志を問い詰めようと思いながら、彼を失う怖さから切り出すことができない。そうこうするうちに高志のI国現地法人への出向が決まる。高志は花にプロポーズする。花は迷いながらもそれを受け入れ、同じくI国の研究所への出向を願い出る。

I国に渡った二人は当初、穏やかな結婚生活を送る。しかし徐々に幸せに影が差す。花は現地でミニコルの普及に邁進するが、夜な夜な強制的に採血される子どもたちの夢にうなされる。一方の高志は異国で働くストレスから、吸血の頻度が上がっていた。やがて中毒症状に陥った高志は、疑似人血では満足できなくなり、執拗に花の血を求めるようになる。花が拒むたびに、高志は不機嫌になっていく。人血料理を作っても見向きもしない。

ある晩、深夜に高志が家を抜け出す。不審に思い後をつけると、高志が違法な人血提供店に入ろうとしていた。止めようとした花を、高志は突き飛ばす。「おまえが悪い」「ミニコルなんてしょせん自己満足のお遊びだ」などと暴言を吐き、店に入る。花は逃げるように帰宅すると、高志の社用端末にログインし、サングイーニの搾取的児童労働・偽装表示等の証拠を入手する。その夜のうちに花は荷物をまとめて家を出ていった。

帰国した花は退職し、メディアに情報をリークする。サングイーニの評判は地に落ち、I国現地法人は閉鎖に追い込まれる。同時期に花の妊娠が発覚。花は高志との連絡を断ち切り、一人で育てることを決意する。

十年後、花はI国で子どもと暮らしている。現地の大手製血企業に勤める彼女は忙しい。I国は十年で経済的にも技術的にも飛躍的に成長し、花の務める企業がサングイーニを買収するという話も出ている。実現すれば、ミニコルの技術を転用し、より大規模なプロジェクトも進められるだろう。

休日——子供を習い事に送り届けた花は、ミニコルで製造した疑似人血を飲んでひと息つく。今日は久しぶりに、凝った人血料理でも作ろうかと思いながら。

文字数:1193

内容に関するアピール

採血が本当に怖いです。注射針が刺され、ゆっくりとどす黒い液体が吸い取られていく様子は、何度経験しても見ていられません。
 血に限らず、自分の体の一部が奪われることに対する恐怖感があります(歯が抜ける悪夢も頻繁に見る)。でも、それは恵まれていることの裏返しともいえるでしょう。根源的には、「持っているものを失いたくない」という恐怖なのだと思います。
 血が資源となった世界においては、貧富の差が血の配分によって現れるだろうという発想から物語を考えました。主人公の花は携帯型製血装置〈ミニコル〉を開発することで、ささやかながらこのシステムに対抗しようとします。一方、パートナーの高志は搾取する側として登場させました。
 ミニコルがあまりプロットの中でうまく使えていないので(携帯型である必要性がない)、実作までに詰めたいです。

文字数:358

課題提出者一覧