敬老

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梗 概

敬老

少子高齢化が極度に進んだ近未来。人口ピラミッドが逆転したことで各国の財政が破綻をきたし、人類の科学技術と経済はかつてない停滞に直面していた。

業を煮やした日本政府は高齢者向けの社会サービスをすべて廃止し、合法化した安楽死を推奨することで、日本は老人差別を国是とした超エイジズム国家と化していた。

引退した防衛省情報本部の諜報員であり徒手格闘の達人であった五十嵐は、老いた妻の介護を行いながら慎ましやかに生活を送ることで、世間の風潮に対するささやかな抵抗を行っていた。

しかし、突然家に侵入した五人の若者によって妻は殺され、五十嵐も反撃をするものの肉体の衰えには勝てず、重傷を負う。五十嵐を襲ったのは「ロビンフッド」を名乗る自称義賊集団で、高齢者を襲って奪った財産の半分を児童養護施設に寄付して世間からの支持を得ていた。

入院した五十嵐の元に自衛隊時代の元上官、若島津が見舞いに現れ、犯人の捜索は警察に任せるよう忠告する。若島津によれば、かつて高齢者が敬われていたのは長寿が貴重で老人が生存競争におけるノウハウの生き証人だったからであり、人口バランスが適正化するまで人類に敬老の精神は蘇らないだろうと語る。

警察は世間の批判を恐れて事件の捜査を打ち切ってしまう。絶望する五十嵐のところに、元同僚で情報戦の専門家である大東が訪れる。大東は「財団」と呼ばれる現状を憂慮する高齢者の組織に所属しており、五十嵐に復讐の機会を提供したいと持ちかける。財団のナノマシン入りアナボリックステロイドにより寿命と引き換えに全盛期の身体能力を取り戻した五十嵐は、ロビンフッドを壊滅させることを決意する。

大東のハッキングにより強盗団の一人、田岡を特定した五十嵐は、VRパチンコ店から田岡を誘拐して尋問する。その過程でロビンフッドの寄付は対外的なポーズに過ぎず、実態は私利私欲の集団であることを看破した五十嵐は怒りのあまり、田岡を殺害する。

田岡の情報により残り四人を特定した五十嵐たちは、新たな強盗のターゲットと偽って田園調布の空き家に四人を誘い込む。五十嵐は彼らに自首するよう呼びかけるが、四人は銃と刃物で襲いかかる。五十嵐は素手で相手を全滅させる。

ロビンフッドの上位組織の存在が判明し、五十嵐は銀座にある会員制クラブへと潜入する。そこはステロイドを投与された老人同士を強引に戦わせて賭けの対象とする地下格闘技団体、「シルバーバック・ファイト」の会場であった。義憤に駆られた五十嵐は楽屋に忍び込んで老人たちを解放して反乱を起こさせる。

奥に進むとクラブを束ねていたのは若島津であった。彼は自らも高齢者でありながら、裏で老人を搾取していたのである。五十嵐は若島津の連れていた現役諜報員を死闘の末倒し若島津を殺害する。

復讐を果たした五十嵐の元に、老人たちが集う。五十嵐は彼らとともに国家体制を転覆させることを誓うのであった。

文字数:1192

内容に関するアピール

「高齢者差別が行われている近未来の日本で、元諜報員の老人が腕力で体制と戦う」という話です。『デモリションマン』、『バトルランナー』のような、本来個人の力では抗しきれないはずのディストピアを主人公が一人で崩壊させる作品が好きで、このたぐいの作品に共通する、現実の問題を極端に誇張した皮肉っぽさ、爽快感あるバイオレンス描写、そしてある種のバカバカしさを伴った痛快さを描くことができればと考えています。

文字数:198

課題提出者一覧