右往左往

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梗 概

右往左往

左利きの会社員である「ぼく」は、ある朝ニュースで「左利きの遺伝子は連続殺人犯と酷似している」という大学の研究発表を知る。同じく左利きの同僚、宮本と笑い飛ばすが、やがてマスコミやネットで「左利き性悪説」が広まり、左利きへのバッシングが始まる。

ぼくと宮本は利き手を理由に会社を解雇され、居酒屋で愚痴をこぼす。しかし店員から「左利き出入り禁止」の張り紙を示され、追い出されてしまう。

翌日、アパートの管理人から左利きはいらないと告げられ、退去を迫られる。不動産屋では、左利きには事故物件しか紹介できないと言われる。ぼくは自分が社会から排除されつつあることを実感する。

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宮本を探して、ぼくはドヤ街の安宿を訪ねる。変わり果てた宮本を見て義憤にかられ、ぼくは「左利き救済連盟」を結成して抵抗運動を始めようと決意する。二人は妨害を受けながら、ネットで左利きを集めて草の根運動に励む。

だが連盟は急速に肥大化し、多数の派閥が乱立してセクト化してしまう。やがて一部の過激派が無差別に右利きを襲撃し始めたため、二人は危機感を抱き、調停のため全派閥幹部を集めた会合を開く。しかし予定と違い、権力に溺れた宮本は過激派を「極左」の異端として吊し上げてリンチにかけ、さらに穏健派を「右寄り」と指弾し始める。ぼくは止めることができず、罪悪感を抱く。

恐怖政治によって連盟は一応団結し、十万人規模で国会議事堂前のデモを行う。しかし機動隊は「対左利き風紀維持法」の施行を告げ、左利きには集会と表現の自由が認められないと宣言する。ぼくがデモ隊をなだめようとする中、紛れ込んでいた両利きのスパイが火炎瓶を投げ込み、デモは鎮圧される。

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ぼくたちは国立の「矯正」収容所に送られる。所長は左利きは社会に有害だと演説する。ぼくは反論するが話にならない。

収容者たちは「右利き養成ギプス」を両腕に装着させられる。これは左腕の活動が右よりも優位になると電流を流し、規定違反回数を超えると左手の指を一本ずつ麻痺させる悪魔の装置だった。所長は、利き手矯正に成功した者は二級市民「名誉右利き」として社会復帰できると告げる。その姿にぼくは宮本を連想し、左右に関係なく、権威を得た人間の嗜虐性は本質的に同じだと気づく。

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半年後、ぼくの左指が二本麻痺したところで、左利きたちは突然釈放される。ニュースが流れ、左利き性悪説には科学的誤りがあり、研究は撤回されると報じられていた。世間は手のひらを返し、左利きを擁護し、大学側を糾弾し始める。

ぼくは無節操ぶりに憤るが、宮本は差別というのは人間の性だと冷笑する。反発したぼくは社会啓発運動を始めるが、被害者ビジネスと揶揄され、さらに過去のリンチ事件が暴露されて失脚する。やがて左利き差別も忘れ去られていく。

そんなある朝、ぼくはニュースでこんな見出しを目にする。

「AB型は詐欺師?」

文字数:1179

内容に関するアピール

私は左利きです。左利きが日常生活で感じる不便や違和感について書かれた本は少なからず存在しますが、それらが社会的な問題として真剣に語られることは、あまりありません。もっとも、社会には人種差別や性差別など、より切実で優先度の高い人権問題があるのも事実です。

本作では、「左利きと右利き」という対立構図を、政治における「左と右」に重ね合わせ、フェイクニュースが差別を生み、政治権力がいつの間にか奇妙な暴力へと変質していく過程を、誇張された寓話として描いています。どこか笑えない笑いを含んだ、スラップスティックな風刺ディストピアSFです。

文字数:264

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