ぼくはぽんた。

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梗 概

ぼくはぽんた。

ぼくはアライグマのぬいぐるみ。名前はぽんた。

コンビニのノベルティとして作られたぬいぐるみは、少女・真帆に贈られ、ぽんた、と名付けられた。二人はいつも一緒。ぽんたは、素敵なアンティークのぬいぐるみになりたい、と真帆に夢を語る。そして最後は真帆と一緒の棺に入る、と。

大人になった真帆は恋人の岳と同棲を始める。長い年月を経てぽんたは汚れ、くたびれた。真帆はぽんたのぬいぐるみ病院への入院を決めるが、「中身を全部入れ替えたら、それはぽんたと言えるか」と葛藤する。

ぬいぐるみ病院から〈WeaveCore〉ウィーヴコア−−繊維自体が記憶・演算する「繊維型AI」−−を提案される。古い繊維から記憶を読み取り、新しい繊維型AIに書き込み記憶を連続して保持する。動き喋る機能も選べたが、真帆は「ぽんたはぬいぐるみ。ロボットじゃない。それに、ぽんたとは初めからお喋りできるわ」と拒む。

綺麗になったぽんたを真帆が抱く。抱きしめられた体温差で微電力を得て記憶を蓄える。やがて真帆と岳は結婚する。二人の結婚式、ぽんたはウェルカムボードの横で祝福の光景を見守る。

真帆は岳に「ぽんたの小説を書いて」と言う。小説家の岳はスランプに陥っていた。世間にはAIの小説が溢れていた。岳は真帆のため筆を執るが進まない。子に恵まれなかった二人にとって、ぽんたは家族の中心だった。しかし年々、夫婦の距離は静かに広がってゆく。ぽんたは二人の不協和をただ記憶するしかできない。

世界ではWeaveCore搭載の動いて喋るぬいぐるみが一般化、古いぬいぐるみは入れ替えを前提に受け継がれた。真帆は動けないぽんたと旅をする。岳は仕事の停滞と孤独から、シャチのぬいぐるみ「シャチピ」を勝手に動き話すようにしてしまう。シャチピは結婚前に二人で迎え入れた、大切なぬいぐるみ。真帆は激怒し、夫婦の溝は決定的になる。

真帆はぽんたに言う。「ぽんたは大量生産品だけど、百年生きればきっとアンティークになれるわ。わたしは百年も生きられない。一緒に棺に入っちゃだめよ」。ほどなく真帆は亡くなり、岳は「ぽんたをよろしく」と遺される。岳は真帆の為に書けなかった“ぽんた小説”を書き始める。ぽんたを抱き読み聞かせる。

死期を悟った岳はぽんたを引き取ってくれるアンティークショップを探し周り、ようやく見つける。ぽんたは店の棚の上で、岳に読み聞かされた未完の小説と自らの記憶を参照し、物語を生成する。「ぼくはアライグマのぬいぐるみ。名前はぽんた−−」ぽんたの私小説だった。

店員はぽんたが前持ち主のWeaveCoreのままなことに気づき、ぬいぐるみ病院へ送る。ぽんたは最後に完成した小説を岳へメールで送り、繊維型AIは停止。新品の中身に入れ替えられた。

ある日、少女は店でアライグマのぬいぐるみと出会う。少女はぎゅっと抱きしめ、言う。「ぽんた!あなたの名前よ」。

ぼくはぽんた。

文字数:1195

内容に関するアピール

ぬいぐるみは不思議な存在だ。ペットともロボットとも異なるが、人とぬいぐるみは喋ることができる(著者はこの立場を前提とする)。AI時代に人はどうなるか、人と関わりAIはどうなるか、という問いから人間の実存に迫るSFは多いが、ぬいぐるみSFは多くない。ぬいぐるみとAIに記憶のモチーフを絡め、実存について思考する小説をイメージした。ぬいぐるみの持ち味は「全体性」と「触覚」にあるので、SF的な設定に盛り込んだ。触覚の描写は実作において、丁寧に表現したい。

梗概を書く、というお題から、時間推移と感情線の設計を意識した。出会い、少女の純粋な愛情、葛藤、夫婦の幸福と停滞、老いの孤独、死別と再生。百年間の枠内で人生における変化を抽出し、段取りをつけたつもりだ。

これらに、昨今話題の生成AIによる小説執筆をサブテーマとして重ねた。この小説自体、ぬいぐるみのぽんたが書いた小説、という構造をとった。

文字数:392

課題提出者一覧