『地下鉄サリン事件』(絶対に語り継いで行かねばならないこと)

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梗 概

『地下鉄サリン事件』(絶対に語り継いで行かねばならないこと)

その朝、ホームに入ってくる地下鉄に私は飛び乗った。何処から異臭がし、目の痛みが始まる。やがて呼吸ができなくなってきた。いくら息を吸い込もうとしても、肺に酸素が入らないのだ。視界がかすみ始めて真っ白になった。私は意識を失い、駅員らに運ばれた。

「イノウエさん、聞こえますか?」遠くから切迫した声が聞こえる。怒号に近い男の声。

「ピンホール状態になっている。」私に言っているのではなく、救急隊員同士で喚いているのだ。私の瞼をこじ開けて、瞳孔を確認している。頻繁に名前を呼ばれる中で私は、言う。

「私、死ぬんですか?」何の返事もないままに、トランシーバーの音が、ガーガーと救急車に響きわたる。

郊外の救急救命センターに搬送されると、酸素マスク、色々な計器が体中に取り付けられた。何台ものモニターが点滅するのを見た後、私は深い深い意識の、最も深い内奥に落下していった。私の臨死体験、それは漆黒の闇に星雲のように光る、とてつもなく巨大で有機的な、生きとし生けるものの集合無意識の一部になることだった。蒼と緑と白色の光の流れは破格に巨大な滝が止まったようにも見えた。私は自分というくくりを超えて、どこまでも広がり、とても大きい何かの一部になっていると同時に、私という個の生命はまだかろうじて、眼前に広がる集合無意識の海の、一滴の水なのであった。私は、私をも母をも祖母をも、そのまた祖先をも超えた生命の源へと旅をした。死はこんなにも豊穣で柔らかく、生の連続性を度外視する穏やかさと静けさで、私だったものを包み込んだのだった。そして、生と死とはこんなにもよく似ている。私は一体どこに行くのだろう。

五日間を病院で過ごした私は、酸素マスクをしたまま、解毒剤の点滴を受け続けた。

サリンガスを吸い込んだ後は、身体がふらふらしてどうにも力が入らず、何しろ最も困ったのは目に受けたダメージだった。一週間、仕事はとにかく休むことにした。

そこから私が現実に、実社会に戻った後、世間なるものにいかに翻弄され、運命まで変わらざるを得ず、一種の必然の元で人生を送ってきたかは誠に以て不思議で、我ながら、数奇な道筋を辿ってきたと言うよりほかない。

<私の未来年表>①Better Days Ahead未来の夫となるフジタカズオとの邂逅。②Finding and Believingもっと周囲を、他人を信じてもいいのではないか。③We Live Hereここに今いること。愛する人と共に生きるということ。④So may it secretly begin胎動 ⑤Understanding⑥Look ahead⑦Back in time 文明やテクノロジーがいかに発展しようと、人間の根幹はそう変わることはない。ヴォネガットやCウィリスらの、ストーリーテリング等も参考にし、時空を主人公が自在に飛ぶ、笑えて泣けるハッピーエンドのSF作品が今ここに。

文字数:1185

内容に関するアピール

オウム真理教による未曽有のテロは、1995年3月20日に引き起こされた。猛毒の神経ガスサリンにより生死の境を彷徨った筆者の、実体験に基づく社会派SFである。臨死体験も筆者が実際、体験したものである。

現在でも、オウム真理教はアレフと名を変えて、特に北海道及び石川県で相当数の信者が増加している。(公安調査庁による。)

SFを書くにせよ、社会とのつながりの中で私ができることを見つけよう、その実現の為に今できることが一つでもあるならば、取り組みたく思った。宗教社会学という視点に於いては、第一人者の井上順孝教授、並びに国際宗教研究所の助力を仰いだ。

テーマから云って、短編ではなく、調査研究を踏まえた中~長編として大きなスケールで、現代の宗教やカルト問題をも含んだSFの形で発表したいと、長年思っていた。ここ、SF創作講座においては、まず、決められた枚数での短編にまとめたい。

文字数:384

課題提出者一覧