梗 概
海賊を消せ
「忘れないで。わたしたちは人類最後の希望なんだから」
出発前の訓示で、リーダーはそういった。
はるかな未来。人類は光速の軛を外れ、銀河系の全域に進出した。人類、いや、地球生物にとっての黄金時代……だったはずだが、謎の宇宙海賊の襲撃を受けることになった。瞬く間に戦線は銀河系一帯に広がり、海賊は人類にとっての巨大な脅威と化した。
海賊の正体は自動戦闘機械だが、かれらを作った文明がいかなるものかは、闇の中なのだ。あらゆるコンタクトは不首尾に終わり、結果はただひたすら殲滅と資源の略奪。圧倒的な軍勢に人類は追い詰められていった。
銀河連邦警察軍のフリゲート艦「アルバレート」は特別な任務を帯びた部隊だった。
「海賊」の中枢を探り、情報を収集し、可能ならばコンタクトを取ること。そのために選ばれた精鋭である。
部隊の切り札は「海賊」の攻撃を生き残り、救出された少女、ミウ。彼女は海賊の本拠地についての情報を持っているというのだ。そこを襲撃すべく編制された部隊が、かれらだ。
超空間航路(ショートカット)をいくつも通り抜け、太陽系から15億光年離れたある銀河にたどり着いた。バーサーカーの本拠地は、ここにあるという。
中心部。降着円盤が発する光を浴びた遺跡のような惑星にたどり着き、真実を知る。ミウの正体は、「海賊」を作った知的生命体だったのだ。
「……人類は、海賊版」
ミウは言った。
「海賊」を生み出した知的存在の文明が発達していくにつれ、保存するデータの量も増え続けた。データの損失は文明の損失である。膨れ上がる一方のデータを永久に保存する方法を研究しているときに、究極の保存方法にたどり着いた。それは自己増殖する蛋白質であるDNAに情報を書き込むことだった。遺伝子として使われていないイントロンの部分を使い、媒体は増殖し、環境に適応するために進化し、情報は保持される。しかし地球に持ち込まれたDNAは勝手に増殖し、あまつさえ改変(突然変異――進化)までされてしまった。これは重大な著作権法違反である。著作権法違反の存在は、速やかに消滅させなければならない。
それが、「海賊」が人類を攻撃する理由である。
「わたしたちは、海賊版だったのか」
そのとき、衝撃的な連絡が入った。「海賊」の軍勢が太陽系を滅ぼしたのだ。違法データたる人類は、駆逐されようとしている。
万事休すか、と落胆したとき、ミウはいった。
「たったひとつだけ、方法はある。それは、別の宇宙であなたがたが正規データになること」
人類のDNAに書き込まれたデータとは宇宙そのもののパラメータ。
この銀河の中心部にある連星ブラックホール。回転が作り出す特異点に飛び込むことによって別の宇宙にいき、かれら自身が「種」になって宇宙そのものを作り替える。海賊版を正規版にする、唯一の方法。
海賊の総攻撃が迫る中、「アルバレート」は中心部に向かった……。
文字数:1182
内容に関するアピール
無限に拡がる大宇宙を舞台にした冒険活劇、スペースオペラはSF愛好者の心をかき立てて止みません。SFというジャンルの草創期から現代に至るまで綿々と作品が作られている、古くて新しいテーマだと思います。
お題で引用される『スター・ウォーズ』もシリーズが作られ続け、アメリカではスペオペ人気が再燃しているとネットのニュースで読みました。和製スペオペの代表格である『クラッシャージョウ』も再漫画化しますし、スペオペの時代がまた来るかも知れません。
実作では「アルバレート」のメンバーをキャラ立てして、ライトに読める本格SFテイストのスペースオペラを目指したいと思います。
文字数:278