梗 概
告解の円環
壮年の牧師は淡々と日課をこなしながら静かな晩年を過ごしていた。まったく変わり映えのしない日常。その日、教誨室に訪れた男は少年時代のたわいもない罪を告白しにきた。年端もいかない弟と一緒に落とし穴を掘り、表面を丁寧にならしてから弟をだまして上を歩かせ、落として泣かせたことがある。それを告白して悔い改めたいと。
牧師は心中、狼狽した。その罪はことあるごとに思い出す牧師自身の経験と細部に到るまで符号していたからだ。男は、多い時は週に一度、少なくとも月に一度は教誨室を訪れ、その後も牧師自身の人生における罪をなぞるように告白を続ける。
高校時代の告白あたりから牧師は、これは何かの脅迫ではないかと身構えたが、どうしても男を教会でつかまえて白状させる勇気が出なかった。むしろ、牧師自身も忘れているような出来事を思い出させる男の来訪と告白を、心待ちにするようになった。男は牧師はもっとも心奥に秘めている慚愧を容赦なくえぐっていく。
やがて男の告白は、牧師が自覚している内容よりも時間的に進んだ罪業に及んだ。牧師は、その罪に魅入られ、信仰の道に入って抑圧していた犯罪への抑えがたい欲求に支配されるようになっていく。
ついに牧師は軽犯罪に手を染める。徐々に深入りして殺人を犯してしまう。
犯した罪の重さに耐えきれなくなり、牧師は教会に足を運び、告解する。格子戸の向こうにいたのはドッペルゲンガーだった。教会に祀られている神の顔は自分の顔であり、踏みつけられている悪魔もまた自分自身だった。牧師は自殺する。
文字数:640
内容に関するアピール
人間の共感性と孤独がテーマなのですが、なんとかSFとしてキレのある短編に仕立てたいと思っています。時間もの、AIものなど検討しましたがまだ答えが出ておりません。
文字数:80