梗 概
収穫
太陽系内に突如として現れた巨大な物体、その速度、進行方向とを計算すると、地球への大きな影響がかなりの確率で予想された。滅亡を想定し、パニックに陥る人々。しかし忽然と、その物体は消えた。
僕は川の浅瀬に身を浸したまま、切り立った岩の上、逆光でシルエットになっている彼女を見つめた。表情もはっきりとしないのに淋しげなことが感じられた。それは僕には埋めることのできない哀しみなのだ。彼女は来春都会の大学へと進むつもりで、そこには彼女の想う人がいる。その頃僕はといえばまだ、中学の3年で、この町にとらわれ続けているはずだ。
蝉の声があふれている。川面をトンボが渡ってゆく。今年の夏も、もう直ぐ終わる。
その頃人類は意識をコンピュータ内でシミュレートする技術を完成させていた。その起源は不明だとしても、コピーしたり、マシンからマシンへと移動させることを可能としていた。不死への一つの方法だとして、富裕層は競うようにして贅沢にメモリを使った情報量の多いシミュスペースの中で己のコピーを生活させるようになった。その他の多くの人々は公営のシミュスペースに人格をコピーした。常時は不活性なそれに必要な時にスマホでアクセスし、更新する方法で自分とコピーとの相違を減らす。自分のより精密な分身を作ることに夢中になるその風潮は、現世以外での自分の生に希望を託すような、閉塞した世界ならではのものであった。
ずしんと地面が揺れ、僕は跳ね起きた。岩の上に、彼女はもういない。一瞬、風景がブロックパターンとなり、やがて、一切が闇に消える。
そんなある日、天空から劫火が落ちてくる。強力なエネルギーシールドにより不可視となった巨大な物体が太平洋に着水、半径数百キロにわたる巨大な爆風と衝撃波、沸き上がった水蒸気の影響で太陽が遮られ、30メートルを越す津波が各国の臨海都市部を破壊し、人類の半分以上があっけなく滅んだ。
やがてそれは海面にたゆたい、巨大なセミの抜け殻のような姿を現した。夥しい数の細くて強靭な触手を体表から放射し、それらが大地や廃墟を求めて伸びてゆく様は、地球の命の最後のひとしずくまで吸い取ろうとするかのようであった。
「で、いつまで懐メロみたいな恋話に浸ってんの?」
私の目の前の若い女が不躾に聞く。顔立ちは整ってはいるが表情が下品だ。この世界のキャラクターではない。削除命令を出しても応答はなかった。
「あたしも好きでここに来たんじゃねぇし」
「一体何が起こってる?」
シミュスペースの管理オペレーターからの返答はない。どうやら何かが、あるいは何もかもが、致命的に壊れてしまったのらしい。
「とにかく、行くよ。あたしらが動かないと物語は始まんねぇし」
「同意しよう。私もオリジナルの感傷にはほとほとウンザリだからな」
文字数:1145
内容に関するアピール
どれだけSF的な絵を描けるかと思ったのだが、例えば巨大隕石が落ちてきて、その影響でどんな情景が起こるかなんて、じっくり考えていたら、いつまでたってもまとまんないので、割とさらっとさせてしまった。
夏の終わりと年上の女の人への淡い恋心を今回は書きたかったのだけれど、それは叶わず。
プロ意識のかけらもなくって、こんななんじゃダメ感は強いのだけれど、梗概って難しいな。
オールディスが亡くなって、長い午後から受けた印象がいまだにトラウマの様に残っていて、いつかあんな絵が描ければなと思う。
タイトルの意味はそのまま、人間の意識が何かに収穫されるということだけど、決して一方的に負けてるイメージではなく、ああ、実作にしないと何だか分かんないなと、反省はしている。
文字数:324