梗 概
Hi-Chaotic Night
四半世紀続いた戦乱の中、激しいサイバー戦の応酬に疲弊した群島国家Aは、外部とのネットワークを遮断し情報鎖国状態となり、一時的に統治下に置かれながらも、戦後、自治領となる。生き残った人々は小さな拠点都市を各地に形成する。
やがてA国は領内の大部分を占める豊富な水資源と林材を活かした新和紙(Neo Wa-shi)の生産地として知られるようになる。戦中に問題化した電子的情報の漏洩や脆弱性から記録媒体として紙が見直され、保存性に優れた和紙は重宝されている。
新和紙の抄造用粘液には、人造獣であるペイパービーストの油脂が不可欠である。しかし、野生化した獣がペイパータイラントへ変異し人を襲うようになる。そこで安全と産業を守るため、自らの肉体を改造して獰猛な獣を狩る暴君狩と呼ばれる者が現れ、彼らはそれぞれ独自の狩猟流派を究めて特殊な戦闘術を編み出していった。
そのようにしてA国は独自の発展を続けてきた。外部との通信はすべて唯一の情報特区であるDigital Manipulation Area(デジ・マ)を通して行われており、領内に流通する情報はデジ・マによって管理されている。
自治二〇周年の祝典が近づいていた。その日は、領出身で世界的歌姫であるニーリカ・ハイレンの凱旋コンサートの開催が決定しており、その模様はデジ・マを通して領内にライブ配信される予定だった。
その前日、拠点都市の一つで領内有数の新和紙職人ウォン・カーヴィ・タナムラの惨殺死体が工房の紙漉き槽に浮いているのが発見される。犯行はデジ・マの情報独占に反発する自由機構によるもので、機構はネットワークの開放を要求する声明を出し、拒否する場合はタナムラの脳から抽出した秘伝の新和紙製法をオープン化すると脅す。
製法データ奪還のため、自治政府によって各工房を代表する暴君狩が集められ、さらにデジ・マから調査官カオル・F・オリハシが派遣される。
機構の都市内拠点を押さえた一向は、機構の活動に外部協力者があることを知る。それは人工知能から派生し、ネットワーク上に独立した存在権を認められている情報体だった。情報体は紙媒体のみに記録されている情報のデータ化と、鎖国により閉鎖された活動領域の開放を求めていた。
指令に情報体の確保または破壊が加わり、さらにデジ・マ内の内通者によって、鎖国セキュリティの解除コードが持ちだされたことが発覚。コードの実行には十数分を要するとされている。そして情報体により解除コードが機構の一員でもあったニーリカの歌に組み込まれる。
夜、コンサートが始まる。コードの所在を知ったカオルたちに与えられた最優先指令は歌姫の抹殺。機構の衛兵たちとの死闘の末、ニーリカに迫るが、アンコールが終わって幕が下り、A国はデジ・マによる鎖国状態から開放されていく。
文字数:1197
内容に関するアピール
タイトルは滅茶苦茶で混沌とした一夜といったニュアンスと、作中で対決するハイレン×カオルの名前を掛けてみました(むしろ名前が後付ですが)。講座を通して一作くらいドタバタアクションものを書きたいと考えながら、なかなか実現できなかったため、最後にエンタメとして盛り上がるようなテンションの高いものを目指したいと思います。
梗概は前半(舞台設定)と後半(今作のあらすじ)に分けてみました。分量と密度を考えて、できるだけ短い期間の出来事にしたいと考え、物語の期間は二日間、それも二日目のコンサートの夜を中心に描いていく予定です。なお、国名は仮にAとしていますが、実作ではしっかり命名します。
これまでに提出した実作では、きれいにきっちり書きすぎているといったような講評をいただくことも多かったので、なるべく勢いやスピード感を出し、荒唐無稽さや外連味で盛り上げることで、楽しめるものに仕上げてみたいと思います。
文字数:400