むかし俺のことを好きなブスがいて

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梗 概

むかし俺のことを好きなブスがいて

 ケイミーこと並田圭美は慢性幻視疼痛に悩まされる15歳の中学生。中学入学と同時に幻視疼痛を患うようになり、神経外科での入退院を繰り返している。心因性の病は根治が難しく、ケイミーは病室で孤独に過ごすことが多かった。
 ケイミーにはヒップチャットで知り合った2つ年上の彼氏オーリがいた。本名は知らない。スケボーのオーリーが得意だからオーリと名乗っている。オーリと付き合い始めてから三ヶ月、身体を許してから態度が冷たくなった。ある日、入院中のケイミの元へと面会に訪れたオーリは、ケイミーにセックスを求める。侮辱されたように感じたケイミーはそれを断るが、オーリと口論になる。そこへ中年女性が表れ、二人を諌める。「好きじゃなくなるのはお互い様。でも、女の子が失ったものに経緯を払って」
 ケイミーはその女性、月ちゃんを深く尊敬するようになる。月ちゃんはいま53歳。自分のことをオバサンと呼ぶが、未婚で子供はいない。いままで恋愛を沢山してきて、中絶を三回もしたが、残るものは何一つなかった。そしていま、子宮体癌が進行して、余命幾ばくもない。ケイミーは月ちゃんの人生を聞いて、空恐ろしくなった。こんなに綺麗な人でも、そんな惨めな人生を送ることになるなんて! ケイミーは月ちゃんにいままで付き合った恋人達すべてに会いに行くよう提案する。その数およそ120人!
 ケイミーは月ちゃんを車椅子に乗せて、時系列順に男たちを探し当てる。皆、それぞれの人生を生きており、当惑するばかりだった。しかし、その中の一人が、ルナというセクソロイドについて教えてくれた。幸せな家庭を築いた彼は、いまでも月ちゃんのことを覚えており、ときおりルナを抱いているという。ルナに「優しいお姉さん」のキャラクターをインストールすると、若いころの月ちゃんにそっくりだというのだ。「たぶん、今まで君を抱いた男たちもそうしてるよ」
 ルナの開発元であるポルニテックに問い合わせると、研究者はかつて月ちゃんと同じバイトをしていた金木聖であることがわかった。金木はいまの月ちゃんに対してどうしようもないと断りつつ、ルナがどれほど長い間男たちを喜ばせてきたかを誇らしげにプレゼンした。「だっていい女だったんだ、たくさん作りたいと思うのが当たり前だろ?」
 ほどなくして、月ちゃんの元彼氏を探す旅は深刻な体調悪化によって終わりを告げる。月ちゃんはどこか満足気だった。ベッドで死を待つ月ちゃんが見ていたお笑い番組に、金木聖の弟である遥が出る。兄と付き合っていた月ちゃんに想いを寄せ、一度告白してきたっきりだった。コントのタイトルは「むかしオレのことを好きなブスがいて」で、絶世の美女が自分を好きになったと勘違いするコントだった。月ちゃんは「あら、これも私のこと」と嬉しそうに笑った。

文字数:1154

内容に関するアピール

『ハイ・フィデリティ』という映画があります。ジョン・キューザック演じる主人公が彼女にフラれた理由を究明するために元カノ全員に会いに行くというどうしようもない映画です。

John Cusack

男としてこの映画のしみったれた感じには共感するところが多いのですが、はて女性はどうなのでしょう。

今回の課題ではテーマが必要です。テーマはズバリ「いいじゃないか、減るもんじゃなし」です。これは男性が女性に向けるマチズモあふれる侮辱の一つですが、本作では「減らないのか?」という疑問を追求したいと思います。

VRなどの発達によってセックス産業は大きな転換点を迎えるはずですが、はたしてそんな時にも人は性的快楽になにがしかの感傷を覚えるのでしょうか。その疑問について、車いすロードムービーとして描きたいと思います。

文字数:336

課題提出者一覧