パープル・レイン

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梗 概

パープル・レイン

 フランシス・タカハラは危険予測研究所の職員である。彼の仕事は量子計算機ラプラスの演算能力を利用して起こりうる危機を事前に回避すること。ラプラスを使いこなすクァントム・コーダーは選ばれしエリートでもあった。
 ある日、フランシスは被支配危機が増していることに気づく。被支配危機とは「この世界のすべてを把握する別の存在がありえた場合の危険」である。危険予測研究ができて以来、必ず観測されていた危機であったため、「ラプラス・ジョーク」と呼ばれていたが、フランシスが観測しはじめた被支配危機は日を追うごとに増大していき、あるとき急増した。最初は過学習だと考え、アルゴリズムの修正を試みたが、何度やっても「問題なし」が結論だった。
 フランシスはラプラスに情報を追加する必要があると判断し、研究所の予算の大半を辺縁宇宙観測施設に投資する。その結果、外宇宙の幾つかに徹底的な破壊があったことが判明、ラプラスは「この宇宙が破壊されようとしている」という結論を出す。フランシスは政治家や投資家に相談をもちかけるが、ラプラス・ジョークを真に受けて気が狂ったと判断され、研究所での権限を大幅に剥奪されてしまう。後ろ盾を失ったフランシスはネットワークで宇宙の危機を訴えかけ、仲間を集める。多くはオカルティズムに支配された者だったが、中にはジェイソン・ネグリのような札付きのハッカーもまじっていた。ネグリらの協力で様々な計算資源と軍事施設を摂取したフランシスは、最後の手段として宇宙ポータルの活用に賭ける。地球から最も遠い宇宙ステーションを恒星まで誤誘導し、ポータルに突入させるのだ。多くの犠牲者を出すことになるが、フランシスはそれを実行する。
 その頃、幼いニムは凄まじい速度で拡大しながら、泡状の巣を観測していた。それが仕事なのか趣味なのかも判然としないまま、観測を続けるか介入すべきかを悩んでいた。特になにもなければ介入し、無に帰してしまうことになるだろうと予想していた。ニムは戯れに銀河の幾つかを破壊するが、「そんなことはやめなさい」とたしなめられる。母親かと思ったが、無限の可能性があり、よくわからなかった。破壊された銀河は美しい光を放って雨のように広がっていった。ニムはその光が宇宙の果てで暗いポータルに吸い込まれていくのを見た。たまたま門が開き、なんらかの重みを移動させるために光を相殺したのだ。ニムは満足を覚え、観測を続ける。すべてがニムの思った通りに動いている。
 宇宙ステーションの隊員120名の命を犠牲にしたフランシスは、拘置所で交流されたまま、ラプラスの被支配危機確率が低下した報告を聞く。少なくとも、五万年は危機が遠ざかったらしい。しかし、そもそも観測は正しかったのだろうかと、拘置所のベッドの上でフランシスは自問する。

文字数:1158

内容に関するアピール

Yahoo! 知恵袋によると、あと40億年で太陽は消失し、私達のいる銀河は終わるそうです。悲しいですね。

『竜の卵』を読んで感じたことなのですが、SFに限らず物語には畳み掛けるように盛り上げるポイントが必要です。今回の実作では、ラスト15枚ぐらいでそれまでの数々の伏線を回収して「おおっ、そういうことだったのか!」と読者を感嘆させることを目指します。ヴォネガット『タイタンの幼女』やウエルベック『素粒子』などを髣髴とさせるラストの盛り上がりに乞うご期待。

「古典力学では、観測可能な物理量は状態の関数であり、状態により一意的に決まる。しかし量子力学では、物理量(オブザーバブル)の決定には相互作用が必ずともなう」とはWikipedia量子論理の項からの引用ですが、私の持ちうるブルーバックス力を最大限に活用し、観測しても分かり合えない人間と超生命体のスレ違いについて、ポエミック・ハードSF的に書いていきます。

文字数:402

課題提出者一覧