梗 概
ふたつの魂
どのようなケースの生まれであっても人間は双子で生まれてきた。同じ性の双子もいれば、異なる性の双子もいた。望まれない子も、望まれた子も皆な双子だった。双子のどちらか一人は15歳の誕生日までしか生きることができないのが世界の理であった。そのため双子の片方が双子のもう一人を殺す事件がよく起きていた。しかし双子の片割れを殺しても、自分が生き残れるというわけではなかった。15歳までしか生きることができない理が自分である場合、死んでしまうのは自分であり、双子の片割を殺してもその理は変わることがなく同じだからである。だけれど死の恐怖から兄弟を殺してしまうということが頻発していたのだ。理によりどちらが死んでしまうのかは、生きている人間からは予想ができる特徴を持っていなかった。つまり他の人間に必要とされているということや、功績がある、才能がある、美しい、健康であるなどのプラスの要因も、犯罪傾向が強い、有用な才能がないなどのマイナスの要因も生き残れるか死んでしまうかに関係していないようにみえた。
ただ私には愛されない子供が生き残るようにみえた。
コナは両親にとても愛されていた。彼は人を大切にしていたし、そのため彼自身も他の人間に大切に思われていた。成績も優秀だった。身体能力も非常に高かった。彼は人から愛される人であった。教師も彼を愛していたし、彼のクラスメイトも彼を愛していた。誰にでも優しく熱心で勤勉であった。それなのにコナと双子である私は、なんの才能も示さない凡庸で人目を引かない人間だった。私は両親が優しく優秀なコナを、私より愛していることを世の中の道理がそうであるように受け入れていたし、友人や教師たちもまた同じようであることも受け入れていた。私はどこかで善である必要をコナから奪い取られているような気がしていた。私は悪徳の限りを尽くすことを思いつき実行した。そうしているうちに私は人に嫌悪され疎まれることが快楽となっていった。悪を行うこと、悪の限りを尽くすことそのものを主目的とした時、悪の行いのなんとむなしいことだろう。やがて世の中の人間が皆そうであるように私もコナも15の誕生日を迎えることになる。周囲の期待を裏切るように15歳の誕生日の次の日も生きていたのは私であった。私は落胆する両親を殺し、瓜二つの顔をもつ双子の弟コナのふりをして生きはじめる。
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内容に関するアピール
ふたつの対立構造として置いているのは、ひとつは、良いことをすると良い結果になる、努力すれば報われると考えている、道徳的な人間の心と、努力や良い行いをすることとその結果には何の因果関係もないはずの現実世界です。もうひとつは、双子のどちらかしか大人の人生をスタートできない仕組みとすることで、互いに相容れない兄弟を対立させます。
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