肉喰リレーション

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梗 概

肉喰リレーション

美味しく食べてね

この世界には肉(ニク)と喰(ハミ)という二つの種族がいた。肉は喰によって育てられ、教育を受け、出荷されて食べられた。代わりに肉は、喰の排泄物と日光と水を食べて生かされていた。

あるところにシェパードという喰の男がいた。シェパードは、喰の中でも変わった存在で、肉に対して愛着を感じて交流をするような者だった。そのおかげでいつも他の喰から馬鹿にされ、臭い臭いと言われていた。

ある日シェパードは、肉を飼育している小屋で、肉である少女ペディと出会い、一瞬で恋に落ちた。シェパードは他の肉には目もくれず、彼女だけを特別扱いし、挙句の果てに求婚した。ペディはそんな直情的な彼のアプローチを可笑しく思いながらも、その誘いを受け入れた。ただし、一つだけ条件があった。自分の腕に着けている出荷の合図を知らせるベルが鳴ったら、自分を丸ごと食べてほしい、と。

二人は交際を始めたが、周囲の喰たちは彼らのことを馬鹿にしたり、反対したりした。特に肉小屋を経営しているシェパードの両親が猛烈に怒りを表した。肉に感情移入するなんて、肉小屋主として半人前だ。シェパードは両親の声に聞く耳を持たず、ペディの傍で眠った。

一年が過ぎた頃、ペディに男が出来た。同じ肉であり、種付け用の肉であるチャムである。シェパードはチャムからも二人の関係を馬鹿にされ、激怒した。これ以上ペディに近付いたら、お前を一番に捌いてやる。チャムはシェパードの父に事のあらましを伝え、今度は父に怒りが伝染する。父はペディを遠く離れた肉小屋主に売ってしまうことに決めた。

突然、小屋からペディがいなくなってパニックになるシェパード。ペディの友人である肉のグリーから、ペディが車で運び出されたことを聞く。シェパードは小屋を飛び出し、何ヶ月もかけて近隣の肉小屋という肉小屋を訪ねて回った。その道中でペディの残していった体の破片を見つけ、ついに彼女の居場所を突き止める。二人は抱き合い、再会を喜び合ったがその時、無情にも腕輪のベルが鳴ってしまう。出荷の合図だった。

シェパードは彼女の手を引き、未開拓地である森の中に入った。まだ誰も辿り着いていないであろうと思われた森の奥に、一軒の古びた肉小屋を見つけ、誰も住んでいないことを確認すると、そこへ住みつくことにした。

二人だけの生活が始まった。シェパードは木の実や草を食べ、ペディは彼の排泄物を食べながら陽の光を浴びた。先に衰弱し始めたのは、シェパードの方だった。喰は肉無しでは、二週間も生きられない。ペディは自分の破片を差し出すが、逆に彼から怒られてしまった。

数日後、彼は衰弱で朦朧としていた。彼女の姿が見えない。小屋の中にも周囲にもいない。少し歩いて見つけたのは、彼女の破片だった。それを辿り、ようやく彼女を見つけた。彼女は木から首を吊っていた。残された遺書を読んだ。自分がまだ老いておらず、肉が固くなっていないうちに食べてほしかったこと。彼に全てを食べてほしかったこと。彼の排泄物と一緒に、自分の骨を埋めてほしいこと。

シェパードは泣きながら、彼女を解体した。全ての部位を、適切な処理で切り分けた。自分の持てる全ての調理技術を発揮し、一週間をかけて彼女を食べ尽くした。その美味しさに涙をこぼし、ごちそうさまと言った。

文字数:1351

内容に関するアピール

ある特定の物を食べないと決めている人たちがいます。そのことに関しては彼らそれぞれの自己満足で結構なのですが、自分としては生きている限り、病原体なり、何らかの生命なりを殺さずには生きていけないと考えているので、その線引きを諦め、食べられるものは何でも美味しく頂くようにしています。この物語上の「肉」というのは、植物や畜産動物だけを指しているのではなく、もっと漠然とした生命そのものです。しかし、「肉」と「喰」の容姿は極めて似通っており、唯一の決定的な差は、その肌の色にあります。光合成を行うので「肉」は緑色の肌や臓器を持っています。また日常会話レベルでの知能は同等ですが、肉には死の恐怖がありません。喰の方にも、肉を飼育して食べることへの罪悪感がありません。寿命は肉の方が遥かに短く、成長も早いです。

文字数:349

課題提出者一覧