ゴーストルール

印刷

梗 概

ゴーストルール

第二次世界大戦中のイギリス・ドーバー海峡、バトルオブブリテン。

──”それ”は遥か昔から世界中で観測され、奇妙な現象として語り継がれていた。
目にはっきりと見えるのに、絶対に触れられない”何者か”がいた。
その何者かは時に知人の姿として、他人の姿として、また場合によっては自分の姿として現れる。
自分にしか見えない場合もあれば、複数で同じものを見かけることもある。
確かに観測されているはずなのに、実体は誰にもわからないそれを、人々は 「虚鏡(きょきょう)」と呼んだ。

主人公・アーロンは大学生であったが、WW2開戦によってイギリス空軍の戦闘機乗りとなった。
アーロン同様アカデミズムの道から戦闘機乗りとなった、同じ航空隊のトレントという僚機とともに、ドイツ軍の侵攻を防ぐために日々戦っていた。

ある日の出撃後、アーロンらの編隊は敵機の奇襲を受けた。
奇襲は成功し、彼らは非常に不利な状況下で猛攻を受けることとなった。

敵機とのドッグファイト中、 突如眼前に乗機と同じ機種の戦闘機が虚鏡として現れた。
混乱するアーロンだったが、前を飛ぶ機体と同じルートを飛ぶと不思議と敵の攻撃を回避できた。
回避行動中に虚鏡の機体番号が見える。 それは、自分が乗っている機体と同じ番号であった。

前を飛ぶ虚鏡の旋回にあわせて操縦しようとした瞬間、ふと違和感を覚える。
一瞬のためらいの後、それと違う機動を選択すると、敵は虚鏡の方を追うことを選択した。敵機にも同じ虚鏡が見えていた!
その瞬間、駆けつけた僚機によってアーロンを狙っていた敵機は無事撃ち落とされ、彼は間一髪で助かった。

戦闘終了後、奇襲によって味方の数は半分以下に減ってしまった。
だが、アーロンは偶然出現した虚鏡のおかげでこの戦いから生還することができた。
彼は疑問に思う。

「あの瞬間、自身の虚鏡が出現したのはいったい何故だったのか? 」

帰路、もう一度あの虚鏡が現れた。
この虚鏡を追えば、真実に近づけるかもしれない。
戦争によって諦めたはずの学問の道が、学者としての名誉が手に入るかもしれない──。

だが、主人公は虚鏡を追うことを諦めて帰路につくことを選んだ。
世界の真実を追わずに生きることを選択した。
探求する機会を失ったが、生き残った後にあるはずの、今後の人生にある多数の可能性にかけた。

一方、そんな中一機の僚機が編隊を離れていくのを見かけた。
トレントがその影を追っている!
残り燃料も十分とはいえず、機体にダメージもあるにも関わらず、彼は学問に身を捧げる人間として探究心を抑えることができなかった。
彼の機体は虚鏡を追ってどんどんと離れていった。

その後。アーロンらが基地に辿り着いた後も、結局彼が帰ってくることはなかった。

彼が虚鏡を追うことで何かに辿り着いたのか、それとも世界の真実に触れることなく、この世界のどこかでそのまま墜落したのか・・・・・・。
それは誰にもわからない。

文字数:1188

内容に関するアピール

「二つの相容れない世界」というテーマに対して、「実存世界と虚の世界」という世界設定を軸に構築しました。

虚鏡の正体について、終戦後に復学したアーロンが「異なる並行世界のレイヤーが限りなく重なっているがほんの少しだけズレたのがこの世界であり、”選ばなかった”可能性が虚鏡として見えるのではないか」という仮説を発表し、この世界において有力な説となります。

ですが、設定を考えつつも「世界の謎は必ずしも明かされなくていいという」という点をどう処理するかに頭を悩ませました。
最終的には「謎を解明しようとする主人公が、答えを諦める代わりに別のものを得る」という形で着地させました。
この場合は「死と引き換えの真実を諦め、『生』を獲得する」というもので、生きてさえいれば次のチャンスはいくらでもあるだろう…と、手放したものも決して全て失ったわけではないという前向きなENDです。

前向きな終わり方以外の話を作ろうとすると、あまりうまくいかないということがようやくわかりました。

文字数:427

課題提出者一覧