選評
梗 概
美しい繭
SF創作講座事務局よりお知らせ(2018.10.10)
当作品は改稿の上、デビュー作『うつくしい繭』(講談社より刊行予定)に所収されます。そのため、本サイトでの公開を中止しております。
文字数:91
内容に関するアピール
グーグル・フォトを教えてもらって、試してみたら、驚くべき整合率で同じ人間が写った写真をまとめてくれた。自分も友人も、撮影時の髪型や年齢がちがっても、顔がどんなに激しくブレていても、ちゃんと識別されている。そのなかで、全く別のときに、全く別の場所で撮影した複数の写真の背景に写り込んでいる知らない男性が、同一人物としてサジェストされていてビビる。この男性と、人生のいろんなところですれ違っているのだろうか?
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私たちの毎日の生活は、魅惑的な偶然の出会いに満ちていて、それは小説、もしくは曲のように構成されているとミラン・クンデラは書いています。けれど、こういう出会いの大部分に人は気付かない、とも。「小説が偶然の秘密に満ちた邂逅によって魅惑的になっているとして非難すべきではなく、人間がありきたりの人生においてこのような偶然に目が開かれていず、そのためにその人生から美の広がりが失われていくことをまさしく非難しなければならないのだ」。
小説的な偶然に限らず、目の前の人間のやさしさも、すぐそこの自然の美しさも、それをそうと認識する目がこちらになければ、それはたちあらわれることなく、記憶のなかに死蔵されてしまうのでしょう。「人生の美は、それをみようとする者に開かれる」ということをテーマに、SF的装置を使って「偶然の秘密」とそこに潜む美を書きたいです。
文字数:573
【法月綸太郎:1点】
小説としての安定感は1番あったが、梗概の段階と小説の段階とで終わり方がちょっと違う印象。梗概なしで小説だけを読んだ場合に、果たして作者の目指した地点に読者がたどり着けるのかどうかが疑問だった。このテーマであれば呪術や催眠でも成り立ってしまいそうで、SFとして提示するのがベストな作品なのだろうかということにも考える余地がありそう。
あとはもっと熱帯の空気、湿気や温度、匂いなどを背景として描写のなかに入れていくと、さらに臨場感が増すと思う。
【都丸尚史 :2点】
たゆたうような文章で作品世界に誘われ、異国情緒や情報の出し方もスムーズで、小説としての安定感は抜群。先が気になるところで突然終わっていて、わざと読者に結末を考えさせるような構成にしたのかと思ったが、それにしても考えるための手がかりが不足している。
非常にもったいないと感じた。この筆力ならば完成版を書いてもらいたく、それをぜひ読みたい。
【大森望:2点】
小説としては文章も雰囲気も上々だが、SF的には、「いよいよここから」というところで終わってしまう印象。SF要素はコクーン・ルームだけなので、ラストはもっとふくらませて、日常から思い切って飛躍してほしい。現状だと、たんに記憶を再生するだけの装置と大差なく、結果的に、SFというより、大井三重子の童話「めもあある美術館」のような成長小説に見えてしまう。
※点数は講師ひとりあたり9点ないし10点(計28点)を4つの作品に割り振りました。