ゲンロン 大森望 SF創作講座 2020
ゲンロンSF創作講座2020へようこそ
2016年4月にスタートした「ゲンロン 大森望 SF創作講座」は、あっというまに5年目を迎え、このほど第5期にあたる「ゲンロンSF創作講座2020」を開講する運びとなりました。
新型コロナウイルス禍で予定より開講が遅れたにもかかわらず、まだ収束しないうちの船出となり、おいおい大丈夫かよ。という感じですが、終末SFじみた光景がメディアに流れるこういう社会情勢だからこそ、SF的想像力が持つ可能性にあらためて光があたり、講座を通じて正面からSFに取り組む意義も大きいと言えるのではないでしょうか。さいわい、当初からリモート環境に強いシステムも構築されているので、安心して受講できます。
とは言うものの、この講座は、毎回、あたりまえのように開講できているわけではありません。ゲンロンカフェという場と、その運営を支える社員並びにスタッフのみなさん、毎回たいへんな労力を要求されるゲスト講師を引き受けてくれる作家・編集者のみなさん、卒業後もこの講座への愛情と関心を持ち続けている元受講生、受講したことはないもののウェブに発表される梗概や実作を熱心にウォッチしてくれるSFファンの方々……などなど、有形無形の多くの力に支えられて、なんとか奇跡的に続けられているというのが現状です。ピースがひとつでも欠けるとすぐに立ちゆかなくなってしまうので、「いつか受講したいと思ってるんだけど……」という人は、いまのうちにぜひ。主任講師をつとめている大森自身も、年を追うごとに、気力と体力の限界を感じはじめていますし、いつまで続けられるかは神のみぞ知る。第5期が最後にならないともかぎりません。
実際にどんな講義が行われているかについては、第1期の内容をコンパクトにまとめた『SFの書き方 「ゲンロン 大森望 SF創作講座」全記録』(早川書房)をぜひご一読ください。ゲスト講師陣の講義と講評、受講生が提出した梗概(+アピール)および実作例を収録し、編者の手前味噌ながら、1年間の講座の成果を1冊に凝縮した、たいへん中身の濃い本になっていると自負しています。
講座が軌道に乗ったここ2、3年は、現役受講生や元受講生の活躍が目立っています。直近の例では、第2期の受講生だった高丘哲次氏が、講座提出作を大幅に改稿した『約束の果て 黒と紫の国』で「日本ファンタジーノベル大賞2019」を受賞。同作は、2020年3月に新潮社から単行本化されて各所で絶賛を集め、高丘氏はみずから、”日本SF第七世代の旗手”に名乗りを上げています。ほかにも、講座受講中に他社新人賞を受賞したり、提出作が編集者に認められて商業誌デビューを果たしたりする受講生もいますし、卒業生の活躍事例はここに書き切れないほど。また、講座の最終関門にあたる「ゲンロンSF新人賞」を通過した受賞作は、原則として、〈ゲンロン〉に掲載されるほか、ゲンロンが創刊した電子書籍レーベル《ゲンロンSF文庫》から単独の電子書籍として商業出版されます。
こうした卒業生たちの活躍のおかげで、受講生に対するSF業界および各社編集者からの注目度は高く、”SF作家への道”を大幅にショートカットすることが可能になっています。ゲンロンSF創作講座は、2020年代日本SFの一翼を担う勢力へと確実に成長してきたと言っていいでしょう。
もっとも、こうした成果はそれぞれの書き手の努力の賜物。ゲンロンSF創作講座は、べつだん「新人賞を獲らせること」を第一の目的にしているわけではありませんし、受講生も、作家デビューを目指す人ばかりではありません。「ゲストの話を聞きたい」とか、「小説を書いている人たちと交流してみたい」とか、「本物の編集者と話がしてみたい」とか、そういうカジュアルな参加も歓迎します。また、作品を書くつもりはまったくないが講義は聞きたいという人には、聴講生システムも用意しています。受講生全員(聴講生含む)には、講義および講評すべてを収録した動画アーカイブが公開されるので、講義を欠席しても、自宅で視聴できます。
逆に、石にかじりついてでも職業作家になりたい人にとっては、実力を試す最高の場になるはず。書きたい作品のあらすじとポイントをアピールする力は、プロになったとき、必ず役に立つでしょう。
小説の書き方は、かならずしも教えられて身につくものではありません。少なくとも、この講座では、小説の基本(ストーリーの構築、キャラクターの設定など)を一から教えるようなことはしていません。とはいえ、ジャンルのさまざまなテーマに応じた作法や心構え、やってはいけないことなど、学べることもたくさんあります。「小説の書き方」のような本を開いてもなかなか載っていないSFのコツ、ジャンルの勘所を、講座の課題を通して身につけることができるでしょう。
これまで、公募新人賞への投稿と落選を漫然とくりかえしてきた人は、自分が考えたプロット、書き上げた作品をプロの作家や編集者に見てもらい、意見や評価を聞くだけで、よほど効率的に小説のスキルが磨けるはず。ファンタジーやホラー、ミステリ、純文学など、SF以外の分野で作家になる道を模索している人にとっても、小説を書く基本は同じですし、SFの書き方を身につければ、それが強力な武器となるはずです。
また、これは自主的な課外活動の範疇ですが、講義終了後の飲み会では、毎月、朝まで語り合う受講生も多数。卒業生、現役生有志合同の懇親会も開かれています。同じ目標に向かって進む仲間との情報交換が貴重な財産になっているようです。来期以降も続くかどうかはわかりませんが、現在は、毎月提出される課題作品を元受講生がウォッチして講評するインターネットラジオ番組「ダールグレン・ラジオ」や、講座前に受講生が集まってたがいの作品について語り合う感想交換会(オフライン/オンライン)、Zoom飲み会などが自主的に開催され、講師以外からのセカンドオピニオン、サードオピニオンを聴くこともできます。さらに、元受講生によるSF同人誌《SCI-FIRE》が刊行されるなど、講座だけではなく、(積極的に参加するかどうかはともかく)さまざまな活動の輪が広がっているのが特徴です。
過去4年間はうれしい驚きと発見の連続でしたが、第5期のゲンロンSF創作講座でも、新たな個性に出会えるのを楽しみにしています。
主任講師 大森望
プログラム
- 「SF創作講座」第5期(2020年度)の開講期間は、2020年9月から2021年8月までの12ヶ月間です。主任講師は書評家・SF翻訳家の大森望です。期間途中での入講、一部講義のみの受講は受け付けておりません。
- 本講座の講義および講評会は、月1回、原則として第4木曜日の夜に、ゲンロンカフェで行います。
- 各回は3コマからなります(例外あり)。1限(19:00-20:00)はゲスト講師の創作環境やテクニックに迫る講義。2限(20:15-21:45)は、課題に沿って受講生が執筆した梗概を講評し、3編の優秀作を選出します。選ばれた受講生は、次回までに梗概を元にした短篇を執筆・提出します。3限(22:00-23:00)は、前月選ばれた梗概優秀作を発展させた短篇の講評を行います。
- 本講座では、すべての受講生は、下記の<超SF作家育成サイクル>に基づいた10回の梗概+アピール文を提出することが求められます。また、成績に応じて、梗概を元にした短篇小説を提出していただきます。すべての提出物は専用サイトで公開されます。
- 1講義にて課題提示
- 各回講義のおおよそ1ヶ月前までに、ゲスト講師から課題が提示されます。課題は「タイムマシン」など道具立てに関するもの、「火星」など舞台に関するもの、あるいは表現手法に関する具体的な指定など、講師によりさまざまです。過去の課題は、こちらでご覧いただけます。
- 2webにて梗概提出
- 受講生は、各回講義の7日前までに、課題に沿った梗概(1200字以内)と内容に関するアピール(400字以内)を提出することが求められます。受講生は、所定のフォームより、梗概とアピールを指定のウェブサイトにアップロードします。提出されたテキストは、受講生以外でもアクセスできる状態で公開されます。一般読者の反応は以下の選考・講評で考慮されます。
- 3講義にて上位3名選出
- 講師によって、優秀な梗概が3本(回により異同あり)選ばれます。選出された3名は④に進み、惜しくも選外となった他の受講生は、その日提示された新しい課題に基づいて、次回提出する梗概の準備を始めます。
- 4webにて小説提出
- 梗概が選ばれた3名は、次回講義の7日前までに、梗概に基づく短篇小説(原稿用紙50枚以内)を執筆・提出します。この3名については、②の梗概提出と④の小説提出が同時並行の作業になります。
- 5講義にて優秀作選出
- 提出された短篇には、講師の協議に基づいて点数が割り振られます。点数は3人を合計したものが、10点+(受講生総数-その課題で梗概を提出した人数)になるように配分します。点数の推移は特設サイトで公開されるとともに、最終講評において考慮の対象となります。
以上のサイクルを繰り返すことで、受講生は「課題に沿った小説を組み立てるプロット力」「分量に見合ったアイデアを生み出す発想力」「作品を魅力的に提示するプレゼン力」「発想を作品に落とし込む筆力」など、SF作家としての基礎体力を確実に向上させることになります。
- 全10回の講義を終えたのち、1ヶ月の準備期間をおいて、2021年8月に修了作品を対象とした最終講評会を行います。修了作品の課題、分量など規定はのちに公開します。
- 最終講評会では最優秀作を1つ、優秀作を若干選出します。最優秀作を提出した受講生は『ゲンロン』ほか商業媒体に提出作品を掲載し、デビューする権利を得ます。最終講評会の詳細については、のち公開いたします。
実績紹介
※アイコンをクリックすると各受講生の作品ページをご覧いただけます。
(第1,2期受講生)
「サンギータ」で第10回創元SF短編賞受賞
五反田はやばい。二〇歳を過ぎるまで滋賀県に住んでいた田舎者なので、最初に訪れたときはビビった。初来訪のきっかけはゲンロンカフェの平田オリザさんのイベントだ。就活のために上京し、五反田でトークを拝聴し、カフェ近くのカプセルホテルに泊まった。ホテルは入り組んだ路地の奥にあって、道に立った妖艶なお姉さんたちがマッサージはどうかと誘ってきた。やばい、と田舎者は恐怖した。
次に訪れたのもカフェのイベントで、亀山郁夫さんが登壇されていた。前回落ちたから今回も就活のための上京だった。面接を翌日に控え、就活カバンを持って臨んだ。イベントが終わるとカバンはなくなっていた。『罪と罰』のラスコーリニコフの話を引いてだったか、文脈は忘れてしまったが、亀山さんがイベント内で「悪をなすこと」について語ってらしたので、犯人は亀山さんの言葉にあてられたのか?と思っていたら犯人は亀山さん本人だった。電車に乗って追いかけ、合流した。「似てるから間違えちゃったよー」と亀山さんは仰った。亀山さんはうっかりさんだった。その晩はなんと亀山邸に泊めていただいた。深夜にご馳走になったうどんの美味さが忘れられない。そして翌日俺は仕事を得た。東京で職にありつけたのはひとえに亀山さんご夫妻のおかげだ。
ここまで読まれた方には五反田のやばさがわかってもらえたと思う。魔都であり、同時に予測のつかない出来事が起こる土地だ。ただならぬバイブスが横溢している。SF創作講座の舞台はそこだ。必然、集まってくるのはただならぬ受講生たちで、彼らは一年間、大森先生をはじめとしたただならぬ講師たちに教えを請うことになる。講座のあとにはただならぬ居酒屋「聖地かまどか」で宴が催される。やばい宴に決まっている。事実、かまどかで大森先生から授かったある言葉が、いまも俺の創作の核を為している。ただならぬ講師とただならぬ生徒がただならぬ居酒屋で朝まで喋り倒すのだから必然、バイブスが生まれる。そう、我々もまた、五反田をやばい土地にしている当事者だったのだ。小説は独りで書くものだが、集団のなかで生まれたバイブスがもたらす「イマ、ココで何かが起こっている感」を伴うことで俺もあなたも、文体や表現やヴィジョンを共鳴・共振・共進化させ、独りでは想像もし得なかった「飛距離」を獲得できるはずだ。その驚きと感動を俺は、いまこの文章を読んでいるあなたとも分かち合いたいんだよ!
(第1期受講生)
『異セカイ系』で第58回メフィスト賞を受賞
豪華な講師陣と「競う場」に魅かれ。成長を求めてSF創作講座の受講を決めました。結果。期待どおりの手ごたえを感じています。
けれど得たものはそれだけではありませんでした。競いつつともに創作する仲間。そのなかに自分を置いてみて。自分の得意なもの。苦手なもの。書きたいものが見えてきた気がします。
1ヶ月に1回。短編小説を書く。それを10回くり返す。落としてしまうこともありましたが。それだけでちょっとした自信になります。そしてなにかを書くと。そのたびに発見がありました。SF創作講座で書いた作品のうえにいま自分は立って。景色が変わった。気がしています。
(第1期受講生)
『うつくしい繭』(講談社)で単行本デビュー
小説は教えられて学べるのでしょうか。学べるところもあるし、全部を取っぱらった本人のなかにしかないものもある、というのが現時点で私が考えることです。後者については学んで得られるものではないけれど、SF創作講座のハードな課題に真剣に取り組んだら、自分のなかにそれがあるか、あるとしたらどのようにあるのか、ということはわかってくる。それからもうひとつ、この講座は、編集者も作家仲間もいないプロになる前の孤独な書き手に、ある重要なものを与えてくれると思います。
大岡信は、詩歌における歌合(うたあわせ)を例にとり、日本では古代から、文芸や芸術の世界において「著しい盛り上がりを見せている時代や作品には、必ずある種の『合す』原理が強く働いている」と分析しています(『うたげと孤心』)。もちろん「合す」だけでなく、そこから離れて創作に取りくむ「孤心」は絶対的に必要だ。しかし「孤心」だけにとじこもっていると、作品は色褪せてしまうのだと。複数で集い、批評や競争をしあい、時には車座になって語りあう「うたげ」の場と、ただひとり創作をする「孤心」の両方を行き来することによって、作品はみがかれ、飛躍する。SF創作講座は、まさにこの、「うたげ」の場であると私は思います。
新型ウイルスの蔓延で、私たちはいま、こころおきなく集うことがむずかしくなりました。それでも工夫と注意を持って、あたらしいかたちのうたげを形成することはできるでしょう。そこにいるのは小説を愛する一流の書き手たちと百戦錬磨の編集者、そしてこれからあなたが出会い、発見してゆく受講生たちです。容赦なくもすばらしいうたげの世界へようこそ。
(第1期受講生)
講談社「コミックDAYS」にてマンガ「乙女文藝ハッカソン」を連載
私はそもそも小説を書いたことがなかったし、読書量も少ない方で、当然の帰結であまり成績の良い受講生ではありませんでした。
しかし受講により仕事につながる企画発想の基礎体力をつけることができた気がします。梗概は再利用して漫画賞の投稿につながり、「同輩と小説執筆」という稀有な経験を戯画化して漫画連載企画の着想を得ることができました。
そしてなによりかけがえのない創作仲間を得ることができました。今でも同期の受講生とは会うことがあります。
なんかパワーストーンの推薦文みたいな意識の高い文章になってしまいましたが、私からは以上です。
あ、私の提出課題は悔しさなどで消してしまいました。すいません。
(第2期受講生)
『約束の果て 黒と紫の国』で日本ファンタジーノベル大賞2019を受賞
「かけがえのない仲間を手に入れました」「見える景色が変わりま
ゲンロンSF創作講座を受け、このページに並んでいるようなキラ
私が講座について思い出すのは、腹が立つことばかり。自分の尊敬
そんな思いをしてまで、面白い小説が書けるようになりたいですか
迷わず「そうだ」と答えることができたあなたは、ぜひゲンロンS
(第2期受講生)
「天駆せよ法勝寺」で第9回創元SF短編賞受賞
「Final Anchors」で第5回日経「星新一賞」グランプリ、「蓮食い人」で同優秀賞をダブル受賞
私はこの講座を受けて人生が変わってしまいました。
そうなっても誰も責任を取ってくれません。自己責任という奴ですね。
ともあれ本講座の講師から得た刺激と、同じ課題に向けて書く仲間たちが、いくつかの受賞につながる力になりました。
もう一つの成果は、物語の設計図である梗概の書き方をある程度身につけたことです。
SF創作講座関連のブログ記事をまとめているのでよければそちらもどうぞ。
書くことを諦めない自信と、他人から学ぶ謙虚さのバランスも重要でしょう。自信過剰は大敵です。
講座で毎回きっちり課題を出し、講評を待つのは辛い。今もあのころを思い出すと心がざわつきます。
でも人生はどうせ辛いのです。
同じ辛いなら受けなきゃ損々。
小説は痛みを糧にすることができます。
いずれは自分の文章で自分を救えることだってあるでしょう。
ウェブサイト: https://YashimaYugen.com
Twitter: https://twitter.com/YashimaYugen
作品リスト:http://bit.ly/yugen-works
(第3期受講生)
「Meteobacteria」で第6回日経「星新一賞」優秀賞(アマダホールディングス賞)受賞
SF創作講座、驚きの真実(小説素人からの出発編)
・「大森望(本物)がいる!」(敬称略。初回講義にて)
・SF作家がたくさん。サインももらえる! ゲストではない方もなぜか集まるゲンロンカフェ。
・小説ほぼ素人に、星新一賞の優秀賞が降ってきた!(誰よりも驚いているのは本人)
・21世紀初頭の日本を騒然とさせたクイズ王から事務連絡が来る!(未来の歴史書より)
・受講者のみなさん、SFのみならず、世の中に詳しすぎる。夜通し話し込んでも寝ないで平気!
などなど、驚きと楽しさにあふれる講座でした。そして、気が付けば、ほとんど小説の書き方というものを知らなかった私に、しっかりと次なる課題が握らされている……。恐るべし。