歩き続ける人々

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梗 概

歩き続ける人々

あるところに、テノマヤという星があった。
テノマヤは、長い楕円のリング状の形をしている星だった。
リングの空洞の中には太陽がある。しかし太陽があるのは楕円形をしているリングの内側の中でも左に寄っているため、太陽光があたるのは、地表のほんの僅かの領域のみ。つまり、ヒトが生きられるのもその太陽光が届く範囲だけだった。
その上、テノマヤの地表はまるでベルトコンベアのように常に動いていた。
太陽の位置を軸として、ゆっくりとその地表が動いていく。
そのため、住んでいるヒトたちは、常に太陽のある場所にいられるよう移動しながら生活するしかなかった。動かずにいたら、いずれテノマヤの端っこ、太陽光の届かない極寒地へ流されてしまうからだ。
人々は太陽のない場所で住む術をまだ身につけてはいない。
そのため、彼らは移動するに適した文明の発達をするしかなかった。
文明が発達し、機械が生まれてくる。それでも彼らは、太陽の届かないテノマヤの最北端で暮らす術を見つけてはいなかった。
その代わり、彼らは移動型都市を発明していった。
テノマヤが動くスピードに併せて、都市が移動していく。そうして、常に太陽光の得られる場所に人々は住めるようになっていった。

しかし、余裕が出てくると争いが生まれてくるもの。
いくつかある移動型都市は、最も太陽の恵みが得られる位置をめぐって争うようになっていった。
そうして、戦争を続けていたある日のこと。
技師の少年イーシャは、自分の作っている機械の部品になるものを探しに戦場へとやってくる。しかしその最中流れ弾に当たって気絶し、移動型都市から落ちてしまう。
目を覚ました時、そこにはもはやどの都市の姿もなく、荒野に取り残されていた。
その上、負った怪我のせいで都市をおいかけるのも難しい。
死を覚悟したイーシャだったが、その時同じように都市から落ちた兵士の少女エルと出会う。生きて家族と再開したいというエルは、生き延びるためにイーシャに協力を求める。
テノマヤが一周する間生き延び、再び地表に都市が現れるのを待つというのだ。
どのみち死ぬのだから、とエルと協力することを決意するイーシャ。
二人は地表に取り残された物資をかき集めて、家を立て、食料を探し奔走する。
そうしている間に、どんどんと二人のいる地表が太陽から遠ざかっていく。夏が秋へ、秋が冬へと変わっていく周囲の景色に、イーシャは四季の美しさを初めて知る。
そうしてやってきた【冬】。なんとか、冬になるまでに動物などを狩って燻製にしたりと、【冬ごもり】をする準備は出来た。
けれど、一番太陽から遠い地表へ来た時、人が生き延びられなくなるほどの寒さになると授業で学んだ。来たる寒さに怯える二人。ゆっくりと、地表は動いていく。

そうして、ついに太陽もなにも見えなくなった時だった。
吹雪に煽られ、家が倒壊する。暴力的な寒さになすすべもなく死にかけていた二人は、謎の飛行物体に救出される。
その飛行物体に乗っていたのは、かつて移動型都市から追い出されたり取り残されたり自主的に出ていった人々たちだった。彼らはかつて移動型都市を発明した技術者の末裔で、この極寒の地で生き延びるための技術をすでに身につけていたのだ。
「これほどの技術を持ちながら、どうして太陽のほうへ行かないんですか?」
そう問いかけるイーシャに、彼らは答える。
「ここにいれば、君たちみたいに取り残された人々を救うことができる。それに、恵まれた場所へ行けば、また不要な争いが発生する。我々が幸せに暮らすには、これぐらいの環境が一番いいのさ」
このように素晴らしい技術を培ったとしても、ここなら傲慢な人間どもも攻め入ってはこない。だから、最も太陽から離れた場所に浮遊し続けているというのだ。

彼らの生き方を気に入ったイーシャは、ここに留まることを決意する。
しかしエルは、自分はここにいるヒトのように穏やかに生きる事はできない。それに、家族と再開したいのだと去っていったのだった。

文字数:1622

内容に関するアピール

「変な世界」ということで、山の手線をモチーフにして考えてみました。中央線を出したかったんですが難しかったです。
文明が発達すると争いは始まるというお話です。

文字数:77

課題提出者一覧