梗 概
チャットボットは正常だ
一
フリーライターである島田和樹は間違えて怪しい原稿依頼を引き受けてしまい、「エージェントA」と名乗る人物から原稿用紙を手渡しで受け取る。
その原稿用紙にはあらかじめタイトルが入っており、1~3枚でセットになっているようだった
しかも、内容は「カップルの別れ話を書いて」や「道行く親子の会話を書いて」など生活を描いた何気ないストーリーの依頼ばかりであった。
手書きしたものを手渡しするという入稿形態が煩わしかったが、小遣い稼ぎ程度の気持ちで行う島田。
タイトルと違わず、何の変哲もない会話劇が求められており、逆に「公園でいちゃついているカップル」という平凡なタイトルに対して、「いちゃついているように見えて殺人事件のアリバイを補い合うカップル」という過激な内容を書いてみたらエージェントAから「君はこれが面白いと思うのか?」と不思議そうな顔をしつつ注意された。
二
原稿依頼をこなしつつ数か月たったある時のことであった。
踏切を待っている間、和樹は通りがかる小学生の会話を聞いて、何か違和感を覚える。
それは、「友達を作りたいが話しかけられない少年」という自分の書いた原稿内容その通りの会話をその小学生たちが話している事象に対してであった。
三
「自分の書いた原稿が現実とリンクする」という事実に気づきはしたものの、懐疑的であった和樹だが、ニュースを見て確信する。
そこには、「有名ホテルが大火災を起こしている」という内容が放送されており、「300人が屋上に逃げたが誰も救出されていない」等、まさしく自分が書いている通りの内容であったからだ。
急いで原稿の続きを書き、「季節外れのゲリラ豪雨が降る」と書き、何とか火事を収めたのであった。
四
後日、新たに原稿を渡しに来たエージェントAにこの事実について問いただす和樹。
エージェントAからは、実はこの世界は仮想現実であり、人物の会話などは全てプログラム通りであり、和樹のように仮想現実中の人間に会話劇を生成させていることを聞かされる。
そして、エージェントAは和樹に「君は会話を生成する、さしずめチャットボットのようなものなのだ」と告げられる。
その事実を含め、エージェントAから今後について聞かれるが、「どうせ考えたってしょうがない、世界は何も変わらないのだから」と和樹はこの仕事を続けることを選ぶ。
五
踏切前で、ある独りぼっちの少年が他の少年たちから声をかけられる。
「お前、隣のクラスの転校生だろ」
「う、うん」
「今から公園に行くから一緒に来いよ」
和樹は自分の書いた原稿がすらすらと流れるのを聞いて小気味よく感じる。
今日もチャットボットは正常だ。
文字数:1103
内容に関するアピール
演劇のように場面転換を考えてこの物語を作りました。
一:エージェントAから原稿を渡され、それを定常的に行うようになるまで―家の中の場面
二:踏切待ち中に少年たちの会話を聞いて、この世界に疑義を抱くまで―町中の場面
三:家の中で「火事現場」の原稿を書き、入稿するまで―家の中の場面
四:エージェントAと会話―家の中の場面(三の家の中の場面より1日後)
五:踏切前で少年たちの会話―町中の場面
以上のように家の中と町中の二場面のみを使用する形です。
シーンの切り替えとしては場所が少なく、章ごとに場所と時間の区切りをつけることで分かりやすくしました。
読んでいただければ幸いです。
文字数:294