梗 概
枯井戸異聞
時は江戸時代中期
太田藩の下級武士である山田新三郎は、妻の落とした簪を探す際に、枯井戸より文を拾い上げる。
その文を開いてみると、一から五までの数字が書いてあり、その横にみみずの這ったような字で一文字(例えば、三「水」など)書かれていることを見つける。
枯井戸とはいえ、元は竜神が住んでいたという井戸である。天啓かと思ったが、何かのいたづらと考え、その文は文箱にしまい、忘れるようにした。
三日後、商家の軒先で水をかけられそうになり、三「水」と書いてあるように、文中の番号と文字が日数と起こることを示しているのだと合点し、竜神について心強く思うようになる。
そして四日目、問屋「飯田屋」に扶持米の換金に赴いた際に、朋輩の大井倉之助が出てくるところでぶつかる。そこで大井の懐から袱紗が落ち、そこから金属の、小判が擦れるような音が聞こえ、新三郎は不振に思ったが、四「金」とはこのことだろうと思い至った。
また、文中の五には「掘」とだけ書いてあり、非番で家にいるのに何を掘るのだろうと考えていたが、昼間に城中へと呼ばれ、藩の重役たちが並んでいる場所で新三郎は、城代家老から「大井倉之助を討て」と告げられる。
大井は任ぜられている村の年貢米をごまかし、飯田屋と組んで江戸へと流しているのだと伝えられ、「翌朝に大井が出かける際に、街道沿いにて討て」と言われる。
大井は城中一の剣の使い手であり、新三郎もなかなかの使い手ではあるが、大井は道場で一番、次点で新三郎の席順であったため勝てる気がしない。
そう逡巡していたが、文に書かれていた五「掘」の意味を考えるうちに枯井戸に思い当たり、井戸の底を掘ってみると、文が入っている木箱を見つけた。
そこには、「大井は大罪人也、誅せよ」と書いてあり、それを目にした新三郎は勇猛心が湧き、「大井は問屋街に在」の文字を見て問屋街に急いだ。
夕方に問屋街につき周りを見渡すと、大井が飯田屋の方から歩いて来るのが見え、新三郎は自分でも思いがけずいきなり大井へと切りかかる。
苦戦したが、大井を討ち、翌朝に城代家老の家へと赴いたが、『飯田屋と組んで年貢米を横流ししていた首謀者は勘定組頭であり、大井は下で使われていたにしか過ぎないこと』、『新三郎が上意討ちをあの場で命ぜられたのは、その場にいた組頭に聞かせ、動揺させ尻尾をつかむためであり、特に大井の生死は構わないものであった』ことを聞かされる。
内密な話であるため、上意討ちの事実は家中には伏せられ、新三郎は井戸に落ちたせいで怪我を負い、療養中であるということにされた。
切りあいの時に負った右肩の傷も癒えぬある日、以前山田家に奉公に来ていた下女のスミが現れ、以前にスミは簪を枯井戸に落としたことがり、それが戻ってきたのだという話を聞かされる。
スミにその簪を見せてもらうと、先日妻の落とした簪であり、あの井戸は竜神でもなんでもなく、過去につながっているのだということに新三郎は気が付く。
大井を打てたのは竜神を強く信じたためであり、自分の実力だけで、ましてや心に疑義が生じている状態では大井には勝てないと考え、 「敵を騙すにはまず味方から……」と城代家老に言われた言葉を反芻しながら、新三郎は慣れぬ左手で、味方を騙すために、ミミズの這ったような字で一から五と文に記すのであった。
文字数:1402
内容に関するアピール
物書きとしての自分の武器を考えましたが、自分はセンスが無く、純度100%のSFは書けないと思い至り、時代劇を書くことにしました。
この作品を自分ではSF時代劇だと思っております。
よろしくお願いします。
文字数:102