脳内お花畑光線

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梗 概

脳内お花畑光線

地球から争いを無くすためには、どの軍事大国にも対抗できるアウトサイダーであることが必要と考えた元歌姫・吉澤は、生涯をかけて衛星兵器をその手中に収める。吉澤は元々は、非実在歌姫だった。シロクマであるKの脳内恋人だったのである。
Kは中学時代バンドを組んでいなかったが、ノートに認めていた物語では吉澤はベースボーカルで、自らはバンドのギターだった。しかし、中3の夏にKは作中でバンドを脱退する。他のメンバーと比べ明らかに演奏が劣っていた為、首になったのだ。吉澤は中学卒業と共に北海道に引っ越してしまうが、彼女の圧倒的な歌唱やカリスマは誰の目にも明らかで、いつか世に出てくるだろうとKは考えていた。
ある日、TV画面の向こう側で吉澤が、ただ歌唱する映像が流れる。横にいるキーボードはかつてのバンドメンバーだった。Kは羨望と悔しさで、その瞳から涙を流す。Kは、自らの脳内ファンタジーを、60億人に伝える必要があると考える。
次に吉澤を目にしたのは、ニュース映像だった。吉澤は戦地で、非戦闘用音声伝達ドローン オンガク を操り、停戦を訴えていた。しかしその最中、空爆により片足を失ってしまう。だがそこから改めてメディアの前に現れるようになった吉澤は、かつて以上の求心力をその身に纏うようになる。
スーパーボウルのハーフタイムショーの最中、吉澤が銃で撃たれる。明らかに頭部を撃ち抜かれる映像が世界に流れるが、直後立ち上がると、何もなかったかのように歌い出す。それは異様な光景だったが、歌い終わるのと同時にその場に崩れ落ちる。
数年後、改めてメディアの前に現れた吉澤は、一方の足を失い、一方の腕を失っていた。頭部も一部は無くなっているが、片目の眼光はかつての様に鋭く、何故か歌唱は変わらず、圧倒的だった。Kは「何故」と考える。人間であるならば、そんな訳はない。しかしそれは、Kの考える脳内歌姫の現在の姿、Kの描いている物語における現在の姿としては完璧なものだった。Kの書く物語の中で、吉澤が要求する。「核兵器よりも強力な、全ての軍事兵器が発動前に台無しになるような、訳の分からない力を私に」。Kはその要求に応え、分厚い肉球でキーボードを叩いた。
軍事大国のトップに、独裁国家の指導者に、その照準は合わせられる。衛星軌道から放たれたその歌声光線が、対象の頭部に命中する。頭部からは一輪の花が咲き、その花は一瞬で枯れると種子形成し綿毛となった。辺り一面にお花畑が現れる。綿毛はあらゆる人類の頭部に着陸すると、脳底動脈とコネクトし、人類と調和した。
他者に対する攻撃性を栄養源にした花弁は花開くと散り、人々から闘争本能が消えた。争いがなくなった世界で、人類の頭頂には様々な花が咲いては散るが、一部マイノリティの頭上には果実が実るようになる。Kは自らの血液で実ったトマトを頭上から収穫すると、白い腕の毛で拭き取って、吉澤に手渡した。

文字数:1199

内容に関するアピール

かつてこの講座には今野明広という人が居たはずなのですが、その人を倒したいと思って僕はここを受講している側面があります。なんでこんなことになってしまったのか分からないのですが。
元々は創作講座本を読んで「こういうの書いてみたいなあ」から試してみたところ「書けない」となり、今野作品を読んで「これなら書けるかも」となった経緯があります。何か”わかる”気がしたからです。
そして書いてみたところ「書けない」となり、僕の作品と今野作品どっちも読んでくれた人に聞いたところ「お前エンタメじゃん。この人文学でしょ」と言われ、「はあ?」と思ったことがありました。僕のも文学だと思っていたからです。
今野作品には「吉澤ひとみさん小説」という、通底するテーマがありました。改めて文字にしても何言ってるのか分かりませんが、本人がそういっているので仕方ないです。
僕なりの吉澤ひとみさん小説に挑戦できたらと思います。

文字数:393

課題提出者一覧